国内で消費する食料全体のうち、純国産が占める割合を示す食料自給率。中国ではそれが“闇”に包まれていた。95%程度とされるが、当局の公式発表はない。筆者がこのほど分析したところ、食料自給率(カロリーベース)の驚くべき低下が明らかになった。
FAO(国連食糧農業機関)がまとめた食料需給バランス統計をもとに独自に計算した結果、中国の食料自給率は遅くとも2000年以降、低下傾向にあった。穀物、野菜、畜産物、魚介類などの農林水産主要67品目では、合計で00年が95.1%だったが、05年91.7%、10年87.8%と低下。最新データの17年は85.5%となり、17年間で9.6ポイント落ち込んだ。小麦やコメなど主要穀物10品目に絞ると、17年間で96.7%から81.3%へと15.4ポイントも大きく低下した。
一般的に食料自給率の分析方法は、あらゆる品目の重さを合計した重量ベース、カロリーに基づくカロリーベース、生産額を指標とする生産額ベースがある。日本などはカロリーベースを重視しており、今回の分析もカロリーベースを採用した。FAOの統計が重量で示されているため、対象品目の輸入と国内供給について、単位重量当たりのカロリー含有量へと置き換えた。
中国ではコロナ禍や長雨の影響もあり食料不安が漂う。8月中旬、習近平国家主席が“食べ残し禁止”を指示したのはそんな時期。米中貿易摩擦が解消されない中、危機説が広がる。こうした事情を反映したのか9月上旬の農産物卸売価格は前年同期比で急騰。コメ4.5%、トウモロコシ16.3%、大豆17.9%、豚肉30.3%と上昇した。
食料自給率という重要データが正確性を欠くために、世論が迷走する。富裕者による買い占めや、業者の売り惜しみを招きかねない。さらには、必要以上に社会不安をあおる輩(やから)が跋扈(ばっこ)しないとも限らない。(愛知大学名誉教授・高橋五郎)
※週刊朝日 2020年10月30日号