実は、私は田中角栄首相以後の全首相に、1対1で会っていて、お世辞抜きで言うべきことを言ってきた。そのために、首相を3人失脚させている。そこで、首相となった中曽根氏に「専守防衛とは本土決戦で、危険極まりないのではないか」と問うた。もちろん1対1で会ったときだ。すると中曽根首相は「それはまったく違う」と大きく首を振って言った。
「自衛隊は戦わないのだ」
私はその説明が理解できず、それでは日本の安全保障はどうなるのか、と問うた。
「戦うのは米軍だ。米軍は世界最強で、その抑止力によって日本の平和が保たれている。だから日本は米国と仲良くして、日米同盟を強化しなければならない」
これは中曽根氏の特異な姿勢ではない。吉田茂内閣時代に、池田勇人、宮沢喜一両氏が2度訪米し、宮沢氏は米側に「あんな憲法を押し付けられたら、日本はまともな軍隊を持てない。日本の安全保障は米国が責任を持つべきだ」と求めた。当時、米国は日本の軍事力強化を阻止したかったので承諾した。そして池田、佐藤栄作以後、安倍晋三に至るまですべての首相が、この姿勢を持続してきた。
だが、経済悪化を背景に今、米国は自国第一主義に傾倒している。米国が日本の安全保障に責任を持たなくなった。だから日本は真剣に自国の安全保障に取り組まなければならなくなったのである。
※週刊朝日 2020年11月6日号
■田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数