ジャーナリストの治部れんげさんは、2019年12月に刊行の共著『足をどかしてくれませんか。──メディアは女たちの声を届けているか』の中で、広告・CMにおける「ジェンダー炎上」のケースを取り上げて説明。その一例が「統計的差別」だ。
同書で紹介されたのは、19年3月にトヨタ自動車のツイッターが炎上したケース。アンケート機能を利用して「女性ドライバーの皆様へ質問です。やっぱり、クルマの運転って苦手ですか?」と尋ね、「とても苦手」「すこし苦手」「どちらでもない」「得意です!」の選択肢から回答させるものだった。
「やっぱりって何?」「苦手選択肢が二つとバカにしている」などの声が上がると、同社はツイートを削除し「女性の運転技量が男性よりも劣るかのような不適切な表現がございました」と謝罪した。
もともと試乗会を通じて、運転に苦手意識のある女性が多いという認識があったようだが、
<どんな集団にも一定の傾向がある。(中略)しかし、個人を見る時は事情が違う。(中略)トヨタのTweetは、集団として「運転が苦手」と考える女性の傾向を、質問相手の女性個人にも当てはめてしまった点で、統計的差別にあたる>
と治部さんは指摘する。
■女性観は社会の裏返し
解決策はあるのだろうか。小宮准教授は、女性の描き方だけを考えていてもこの問題は解決しないと指摘。女性の魅力を特定の性的魅力に還元するような女性観の狭さは、政治や経済の場で、女性が自立して活躍できる社会になっていないことの裏返しでもあるからだという。
「どういう女性の描き方が良くないのかを話しても、それ以外の描き方が想像できなければ『じゃあ、どうしたらいいんだ』ということになる。女性の描き方に関して、どれだけの想像力を私たちが持てるのかは現実の女性のあり方に依存する。女性が活躍できる場面が増えることと女性の描き方が多様になることは、相互に影響しながら進んでいくのではないでしょうか」(小宮准教授)
(編集部・高橋有紀)
※AERA 2020年11月2日号より抜粋