性別役割を押し付けたり、女性を性的対象にした広告やCMの炎上が40年以上前から繰り返されている。背景に何があるのか。AERA 2020年11月2日号が迫った。
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テレビでサンマの初漁のニュースを見たとき、違和感を覚えたというのは静岡県に住む40代の女性だ。男性コメンテーターが「自分もスーパーの店頭に行き、1尾いくらか見てきた。非常に高い、庶民には厳しい」と話した上で、「奥様は大変です」と締めくくったという。
「生鮮食品を購入するのは既婚女性だけだと決めつけていませんか。独身の男女、離死別した人は、生鮮食品を買わないとでも思っているのでしょうか」
スーパーの魚の値段を気にしながら家計のやりくりをするのは「奥様」だというステレオタイプが、コメンテーターの頭の中にあったのだろう。これを女性は、ジェンダーロール(社会から期待され、求められる性別役割)の押し付けだと感じた。
思い出されるのが「私作る人、僕食べる人」のCMだ。思い出すと言っても30代の筆者自身は、リアルタイムで見た記憶はない。なぜなら今から45年前のCMだから。ラーメンの丼を前に、若い女性と女の子が自分たちを指さして「私作る人」と言い、それを受けて若い男性が「僕食べる人」と言って、3人でラーメンを食べる。このハウス食品のインスタントラーメンのCMは、「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」の抗議行動により2カ月ほどで放送中止に。1975年のことだ。
■固定観念の押し付け
それから40年以上、広告やメディアの中でジェンダーロールの固定・強化は繰り返されてきた。おむつブランド「ムーニー」のCMが「ワンオペ育児を美化している」と批判を浴びたのは3年前のことだ。
養殖うなぎをスクール水着姿の少女に擬人化した自治体のPR動画、「萌え絵」の起用など、女性を性的対象として描くことによる炎上も数え切れない。なぜ炎上を繰り返すのか。東北学院大の小宮友根准教授(ジェンダー論)が説明する。
「ステレオタイプな女性像を押し付けたり、女性の価値を特定の身体部位に還元したりすることは、現実の女性がセクハラなどで経験していることでもあります。女性への差別的な価値観が現実のあちこちにあることが問題なのであって、メディア・広告の表現する女性像もその一部として批判されている。そうした問題の繋がりが見えない人は、何が批判されているかわからず、いったん引っ込めても、同じことを繰り返すことになります」