藤井聡太(c)朝日新聞社
藤井聡太(c)朝日新聞社
師匠・杉本八段と研究対局をする藤井二冠。爽やかな笑顔の中に、強い負けじ魂を秘めている(写真提供・杉本昌隆)
師匠・杉本八段と研究対局をする藤井二冠。爽やかな笑顔の中に、強い負けじ魂を秘めている(写真提供・杉本昌隆)

 10月26日に行われた王将戦挑戦者決定リーグ3回戦で敗れ、藤井聡太二冠(18)の最年少三冠、最年少九段は“お預け”になった。敗戦は悔しいだろうが、その負けじ魂こそ藤井を強くした。そう語る師匠の杉本昌隆八段に強さの秘密を尋ねた。

【写真】師匠・杉本八段と研究対局をする藤井二冠

「同級生たちからは『ふだんはぼ~っとしているように見えるのに、将棋になるとすごく真剣な表情をしているのが不思議』と言われています」

 藤井二冠が通う名古屋大学教育学部付属高校からそんな教員の声が聞かれた。

 小さいころの家庭での評価は「どんくさい」だった。かつて将棋専門誌に母親の裕子さんはこう話していた。

「小さいときから、会話の最中でも何か考えていることがありました。初めて将棋会館に泊まったときも、着替えを全部部屋に置き忘れて空のカバンを持って帰りました。新幹線の中にお財布を忘れてきたこともあります」

 しかし、こと将棋がかかわると、藤井二冠は別の顔を見せる。

 出版社主催の全国小学生将棋大会3年生の部、準決勝で、負けた藤井は大声をあげて泣いた。泣きやまないまま3位決定戦に臨み、対局して勝った。藤井がプロ棋士養成機関「奨励会」に入会する前年度のできごとだ。

 藤井が小学4年のときから師事するのが杉本昌隆八段。『悔しがる力──弟子・藤井聡太の思考法』(PHP研究所)の著書もある。幼いころの藤井が負けて大泣きする姿を何度も見たという。

「投了すると同時に目の前の将棋盤を抱きかかえて、顔を盤面に押し付けて吠(ほ)えるように泣き叫んでいました。私は、負けた対局ほど学びがあると考えているので、悔しいと思うことこそ伸びるチャンスなのです。それだけ悔しがれる藤井を頼もしく思いました」

 思えば、「卓球少女愛ちゃん」こと福原愛も小さいころは負けてギャン泣きしていた。悔しさとは上達への原動力でもあるのだ。

 そんな藤井二冠が最近、悔しさをあらわにした瞬間があった。10月5日に行われた王将戦挑戦者決定リーグ2回戦。相手は豊島将之二冠。過去の対戦成績は0勝5敗と、天才をしても勝てていない強敵だ。対局開始直後から、スーツの上着を脱ぎ捨て、前傾姿勢で盤面をにらみつける姿に執念をうかがわせた。

 中盤から終盤にかけての勝負手が決まり、一時は中継カメラに映し出されたAI(人工知能)の形勢判断で99対1と圧倒的優勢になった。しかし、結果はまさかの逆転負けだった。

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