例えば、“AI世代の申し子”とも呼ばれる千田翔太七段(26)は、研究はもっぱらAIソフトを利用して着々と昇段を続けてきた。現在、順位戦では藤井の1クラス上のB級1組で戦っている実力者だ。藤井に6連勝中の豊島二冠も一時期は人間とはいっさい指さずにAIを相手に研究を続けて勝ち続け、AIによる研究を棋界に普及させた。
AIを使った研究のメリットは時間短縮だ。何通りもの変化がある局面での最善手を導き出すにもボタン一つで答えを出してくれる。人間相手の対局で必要な考える時間が大幅に短縮されるのだ。
多くの棋士がAIを使って研究しているが、藤井がAIを利用し始めたのは中学生になってからだった。師匠の杉本八段が「小学生でAIを使うのはまだ早い」と難色を示したからだ。
藤井を「AIを使うけれど、AI棋士ではない」という杉本八段だが、AIを使った藤井流の勉強法に驚いたことがあるという。
藤井はよく師匠に「この局面ではどう指すのがいいのでしょう?」とスマホの画面を見せて意見を聞いてくるという。ある日、藤井が見せてくれた画面は藤井とAIとの対戦で現れた局面だった。AIに考えさせればいいものを、あえて時間をかけて自分で答えを出そうとしていたのだ。
「藤井がやっていたことは非常に地味で非効率的で好まれない研究法です。それを楽しみながらしつこく考えていけるのが藤井の強さの秘密なんですね。藤井がそういう勉強法を採用していることを知って、同業者としてかなり衝撃を受けました」
藤井が提示したこの局面について検討しているところに、現在順位戦B級1組で昇級争いをしている山崎隆之八段も加わった。そこで藤井のこうした研究方法を知らされ、「藤井君はこんな勉強をしているのか」と驚いていたという。(本誌・鈴木裕也)
藤井聡太(ふじい・そうた)/2002年、愛知県生まれ。16年、史上最年少でプロ入りし、以来無敗のまま29連勝と将棋界の最多連勝記録を更新。19年、朝日杯将棋オープン戦で2連覇を果たした。
>>【後編/藤井聡太は「記録に関心ない」 師匠が明かす“無心”の将棋姿勢】へ続く
※週刊朝日 2020年11月13日号より抜粋
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