「4カ国による軍事演習は中国への牽制が狙いですが、南シナ海で行われるようなことがあれば、さらに強烈な軍事圧力をかけることになります。対中強硬路線は、残念ながらバイデン氏になっても変わらない。東南アジア諸国は米中対立の激化を本当に心配しています」
2021年度以降の在日米軍駐留経費、いわゆる「思いやり予算」の日本側負担を定める交渉も始まったばかりだ。20年度防衛省予算で1993億円に上っているが、トランプ大統領はその4.5倍の年80億ドル(約8400億円)の支払いを要求している。
沖縄国際大学大学院教授の前泊博盛氏は言う。
「1980年代の米国が莫大な双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)を抱えていたことから、思いやり予算は増額されていきました。いまは日本の財政赤字が深刻化しており、貧しい人がお金持ちに貢いでいるようなもの。『思いやりすぎ予算』と言ったほうがいい」
前回、15年のオバマ政権下での交渉時は約130億円増えた。トランプ氏ほど法外なことは言わないまでも、増額要求は避けられないだろう。
トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)諸国にも防衛費を国内総生産費(GDP)比2%超にするよう要求。現在、2%超を支出する国は倍増し、フランスなど10カ国となった。だが、この話には裏がある。猿田氏が明かす。
「実は、バイデン氏は米外交誌への寄稿の中で、NATO諸国の防衛費引き上げについては、もともとオバマ政権が要求した成果であり、トランプ氏の手柄ではないと主張しています」
オバマ政権でバイデン氏(当時・副大統領)は、沖縄県名護市辺野古に基地を新設する現在の普天間移設計画を堅持してきた。辺野古海域では軟弱地盤が見つかったが、日本政府は無理やり埋め立て工事を強行している。日本側が強く要求しない限り、普天間飛行場の返還もままならない。
「全国の沖縄化も進んでいます。例えば北海道の演習場では、射程20キロ近い長距離砲を使用するなど、沖縄ではできなかった演習を自衛隊と米軍が共同で行うようになっています」(前泊氏)
北朝鮮政策でも、バイデン氏は無条件で首脳会談に臨んだトランプ氏を批判。金正恩・朝鮮労働党委員長を「悪党」と呼び、核能力引き下げを会談の条件にしている。
「金氏はバイデン氏の出方を探るため、ミサイル実験や核実験を再開する恐れもあります」(前田氏)
自国第一主義に走ったトランプ政権が終わっても、その恩恵を日本も享受できるとは限らない。(本誌・亀井洋志、池田正史、秦正理)
※週刊朝日 2020年11月27日号