「中国への厳しい姿勢は変わらない。特に先端技術は安全保障にも大きく関わるので譲歩しにくい。そのため日本は、米国の対中政策に関する交渉や調整の過程で、日本が不利な状況にならないよう働きかけていく必要があります」
住友商事グローバルリサーチの本間隆行チーフエコノミストが心配するのは、石油など化石燃料からの転換に伴って生じる「痛み」だ。バイデン氏の環境重視の姿勢は、石油・ガス業界には逆風となる。
「シェールオイルの開発で、米国は今や世界1位の原油生産国。しかし、『脱化石燃料』が進めば、これまで築いてきた雇用や資本も損なわれる。構造転換の過程で原油相場が一時的に混乱する恐れもある。原油を輸入に頼る日本もひとごとでは済まない」
巨額の財政出動への懸念もある。歳出の拡大は、金利の上昇を招く。相場研究家の市岡繁男さんは、
「米長期金利の上昇が引き金になって今まで続いてきた相場の流れが反転する可能性がある」
と警鐘を鳴らす。
「2008年のリーマン・ショック以降、株式市場ではIT関連などのハイテク株が買われ、鉄鋼やエネルギー関連といったバリュー株が売られる流れが続いてきました。また、米国債や金といった貴金属が買われる一方で、新興国の国債や原油などは売られてきた。こうした相場全体の長期的な動きが今、ピークを迎えつつある。要注意なのは、足元で上がっている米長期金利。金利が上がると株価は下がる。株価の天敵です」
長い下落相場に突入しかねないというのだ。ただし、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、こうした見方に否定的だ。
「確かに、財政出動でさらに金利が上がる可能性はあります。しかし、米議会は、上院は共和党、下院は民主党が過半数を握る『ねじれ議会』になる可能性もある。ねじれ議会となれば、公約どおりの政策の実現は難しくなります。また、バイデン氏は、トランプ氏よりも米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性を重視するとみられ、金利の行方を左右する金融政策も大きく変わらないのでは。結果的に金利の急激な変動は考えにくい」
金融市場では、「バイデン色」がフルに発揮されないほうが、歓迎されるのかもしれない。(本誌・亀井洋志、池田正史、秦正理)
※週刊朝日 2020年11月27日号