国も、上野エリアの「多様性」を見出している。たとえば日本には、フランスにあるルーブル美術館、イギリスにある大英博物館のような巨大アート施設がない。だが、上野エリアの美術館や博物館を合計するとそれらに匹敵する集客力がある。上野エリアを「面」としてアピールする施策は、2015(平成27)年度に「上野文化の杜新構想」と名づけられ、本格的に始まった。

 核になったのがアートだ。国や都など、管轄が異なる施設間ではなかなか手をとりづらいが、複数館が同じモチーフで関連する内容の企画展を行い、送客しあうなどの取組みが続々と生まれている。施設スタッフも客も、みんなが大好きで心を動かされる「アート」を媒介にすると、心の壁は意外に低くなる。

 上野エリアの連携や日比野さんの活動を支援する上野文化の杜新構想実行委員会・事務局長の川村力さんは、アートがもつ集客力と裾野の広さを指摘する。

「たとえば、経済や教育などテーマを絞った活動では興味のある人しか集まらない。スポーツも、観る人と競技する人に分かれる。でも、アートは制作者と鑑賞者という枠にとらわれず、誰でもいつでも参加し、手や身体を動かすことができるんです」

 昨今、国や企業が取り組む「SDGs」は「誰一人取り残さない」ことがテーマだ。だが、コロナ禍では、派遣切りにあう社会人、客足が遠のいて閉店を余儀なくされる飲食店など、たくさんのものが社会から零れ落ちている。複雑さと、その一方で誰もがつながれるアートという資産をもつ上野エリアの挑戦は、社会の挑戦でもある。

 さて、上野で「包摂」を掲げた日比野さん、コロナ禍で別のものにも「包摂」を見出したという。オンラインだ。

「オンラインの特徴のひとつは“物理的な壁”が取り払われることで、誰でもどこからでも(通信環境さえ用意できれば)アクセスし、つながれるわけです。これは、さまざまな人々を受け入れる、誰をも排除しない“UENOYES”のコンセプトと非常に相性がいい」

 そのうえで、上野の新たな姿を発信したいという。

「家の中(HOME)から上野へ、家の外(AWAY)からも上野へオンラインを通じて来ることができ、もしかしたらそんななかで、中(HOME)と外(AWAY)の区別がない上野の姿が浮かび上がってくるのかもしれません」

                      (文・カスタム出版部)

※詳細は公式ホームページで。

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