任命拒否問題を「政府の圧力にさらされている学術会議」という構図で捉えると、学者は反権力の立場で政府に相対する文化エリートだ。しかし、学術会議の役割や機能に批判的な庶民感情にフォーカスすれば、「特権的な学者を反権力の立場から批判している」という構図になる。

 政府が学問の場に「上から」介入してきたという側面だけでなく、それを「下から」支える右派ポピュリズム(大衆迎合主義)に留意する必要がある、と伊藤教授は強調する。

 右派ポピュリズムの標的は「特権階級」とみなされる知識人だ。その矛先は2000年代以降、主にマスコミに向けられていた。それが昨年、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」で問題になった表現の不自由展でアーティストに飛び火。そして今回、「本丸」ともいえる学者が上と下から挟撃される段階に入った、と伊藤教授は見る。

 こうした文化エリートを攻撃する際のキーワードが「税金」と「反日」だ。

 今回も「学術団体に税金が投入されているのは日本だけだ」「『防衛研究は認めないが、中国の軍事研究には参加する』という反日組織だ」といった根拠のない情報が拡散された。

 任命拒否とは無関係だが、「税金が使われている」という事実が学術会議批判の有力材料になっている面は否めない。これには菅首相ならではの効果もある、と伊藤教授は言う。

■学術会議批判の拡散に「親安倍派

 菅首相は学術会議に関して「年間10億円の予算を使って活動している政府の機関で、任命された会員は公務員になる」との見解を繰り返している。

 自らも「特権階級」の出である安倍晋三前首相が知識人の特権性を指摘しても説得力を欠くが、「苦労人」を売りに登場した菅首相であれば庶民感情に合致しやすい、というわけだ。

「一部の庶民感情は、携帯電話料金の値下げ圧力を歓迎するのと似た感覚で学術会議への圧力を応援しているのでは」(伊藤教授)

 左右両派の主張や対立が顕著に表れているのがツイッターだ。匿名の利用者も多く、瞬く間にフェイクを含む情報が拡散されるツールになっている。

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学術会議批判と「親安倍派」