「もともと安倍前首相を応援していた人たちが、学術会議を批判している実態が浮かびました」

 こう話すのは、任命拒否に関するツイッター上の反応を分析した東京大学大学院の鳥海不二夫准教授(44)だ。

 鳥海准教授は、この約2年間で安倍前首相に対する批判を多数ツイートした人(反安倍派)と、積極的に支持する意見を多数ツイートした人(親安倍派)のアカウントを分類。このデータをもとに、今回大規模に拡散したトップ200のツイートをリツイートした人の内訳を調べたところ、学術会議を批判するツイートの70~85%が「親安倍派」の人たちによって拡散されていたことが分かったという。

■フェイクや真偽不明情報も批判の後押し

 学術会議批判を後押しした要因の一つに、政治家などが発信源になったフェイクや真偽不明情報も挙げられる。

 橋下徹・元大阪府知事は、米国や英国の学者団体には税金が投入されていないとして、「学問の自由や独立を叫ぶ前に、まずは金の面で自立しろ」とツイッターでつぶやいた。実際の予算規模と税金投入は、全米科学アカデミーが約210億円(うち8割が公費)、英国王立協会は約97億円(うち7割弱が公費)で学術会議をはるかに上回る。

 ツイッターやまとめサイトで拡散された、中国が外国人研究者を集める国家事業「千人計画」に「学術会議が積極的に協力している」との誤情報は、自民党の甘利明税制調査会長が発信したブログの内容がベースだ。

 政治的な意図も見え隠れする学術会議批判の流れに、メディア関係者が「相乗り」する現象も起きた。

 10月5日、フジテレビの情報番組「バイキングMORE」で同局の平井文夫上席解説委員が「この(学術会議の)人たち、6年ここで働いたら、そのあと、(日本)学士院ってところに行って、年間250万円年金もらえるんですよ、死ぬまで」と事実と異なるコメントをし、同局のアナウンサーが謝罪した。

 ちなみに平井氏は米大統領選をめぐっても、フジテレビが運営するウェブサイトに誤った情報に基づくコラムを11月11日に配信。同日夕に末尾に「訂正」を追記し、翌12日午前0時にコラム自体を削除した。

 平井氏が引用したのは、政治ニュースや世論調査データを発信している「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」をめぐる情報だ。激戦州のペンシルベニア州で、RCPがいったんは民主党のバイデン前副大統領の勝利を判定した後にそれを取り下げたという誤った内容だった。この誤情報は、トランプ大統領の顧問弁護士で元ニューヨーク市長のジュリアーニ氏らがツイートして広まり、日本でもまとめサイトなどを通じて拡散された。

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フェイクに踊らされるワケ