エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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スキンケアをする男性は珍しくなくなり、男性用化粧品の売り場も増えた。昨年11月、東京・池袋のドラッグストアで (c)朝日新聞社
スキンケアをする男性は珍しくなくなり、男性用化粧品の売り場も増えた。昨年11月、東京・池袋のドラッグストアで (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 男性化粧品市場が伸びているそうです。スキンケアだけでなく、メイクアップにも関心が高まっているのだとか。リモート会議の映りを気にする人も多いそうです。

 パンデミックでリモート会議が増え「うわ、自分は仕事中にこんな風に見えているのか」と動揺した人も多いでしょう。見た目が気になると不安ですよね。身だしなみは見栄を張るためではなく、安心して人前に立つために必要なもの。好きな装いをしていれば不安がないので、見た目のことは忘れていられます。その分、脳味噌を思考に集中させることができるのです。

 最近は、職場のルールで女性にだけ眼鏡禁止やハイヒールやメイクアップの義務づけがあるのはおかしいという声が上がり、女性を職場の華として、つまり男性たちの目を喜ばせる要員として位置付ける性差別的な慣習だと国内外で批判が高まりました。ハイヒールやコンタクトレンズやファンデーションが本人にとって苦痛であれば、仕事は苦行です。同時に、男性のスーツ着用強制にも疑問の声が上がりました。

 男性の化粧が特別でなくなれば、「女が化粧するのは男にモテるためだ」「女はおしゃれするべきだ」という決めつけの不当さに気づくはず。誰しも、どんな動機で化粧しようがしまいが文句を言われる筋合いはありません。男性も、化粧が気持ちを前向きにするという効用やしたくない日もあるということを実感すれば、人それぞれ、その時々でいいんじゃない?と腹落ちするでしょう。

 リモートで自分の姿を見る機会が増えると、不安からルッキズム(美醜で人を判断する)にとらわれかねません。見られている自分に自覚的であるしんどさをみんなが体験する時代だからこそ、より視線の暴力に敏感になり、見る・見られる場を安全にするための知恵を出せればと思います。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年11月30日号