広辞苑には「信仰」について「宗教活動の意識的側面をいい、神聖なもの(絶対者・神をも含む)に対する畏怖からよりは、親和の情から生ずると考えられ」とあります。まさに私の信仰心も親和の情なのです。それは実は、相手が仏陀(ぶっだ)であろうとイエス・キリストであろうと変わりません。
民俗学者で国文学者の折口信夫博士は、日本に仏教やキリスト教が伝来する前の「古代人」の心を探ろうとした人です。その折口博士の考え方を解説した本で次のような記述を見つけました。
「人間の知覚も思想も想像も及ばない、徹底的に異質な領域が『ある』ことを、『古代人』は知っていた。(中略)すでに死者となった者やこれから生まれてくる生命の住処(すみか)である『あの世』または『他界』もまた、世界を構成する重要な半分であることを、『古代人』たちは信じて疑わなかったのである」(『古代から来た未来人 折口信夫』中沢新一著、ちくまプリマー新書)
これは私の虚空に対する思いと同じです。私の信仰心は古代人のレベルなのかもしれません。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2020年12月4日号