■時計作りの過程全体で

 国内時計メーカー大手のシチズンでも、ピニャテックスと言われるパイナップルの葉を利用して作られた素材をバンドに使った製品を9月に発売した。

「時計のバンドといえばカーフ(牛革)が当たり前で、それを除外したのは大きなチャレンジでした。様々なサステナ素材を世界中から探して取り寄せて、質感や耐久性などを吟味しました」

 と説明するのは、企画を担当した商品開発部の宮川花菜さん。

 サステナブルウォッチブランドを掲げる「シチズンエル」を国内で発売したのは16年。単にヴィーガン素材を使用するだけでなく、時計を作る過程全体で、サステナビリティーを意識してきた。

 光発電で電池交換が不要な技術は以前から搭載されていたが、それに加えて例えば、食べ物や化粧品のように、時計を構成する部品一つひとつまで成分を明らかにし、透明性を確保。材料調達から生産、廃棄まで時計の一生涯に排出されるCO2量も公開した。取扱説明書も紙を削減するためデジタル化した。

 文字盤に輝くのは、ラボグロウン・ダイヤモンド。ラボで育てられた、つまり合成ダイヤだ。

「当社では、通常の天然ダイヤをシチズングループ調達基本方針に基づき調達していますが、ラボグロウンであれば不当な児童労働などの心配も全くありません」(宮川さん)

 さらに同ブランドでは、武装勢力の資金源となるいわゆる「紛争鉱物」を使用しない「DRCコンフリクトフリー」宣言もしている。

「時計は小さいけれど自分のアイデンティティーを示すもの。どこかの誰かが嫌な思いをして作られたものを腕につけたくない、という思いでこだわりました」(同)

 当初は40代女性をターゲットに想定していたが、価値観に共感した30代以下の若者からも支持されているという。

 かつて「フェイクファー」「フェイクレザー」だった言葉は「エコファー」「エコレザー」に変わりつつある。

 フェイクかリアルか、人工か天然か。そこに優劣をつけるのではなく、自分が何を大事にするのかを優先しスタイルを選択する。すでに消費者たちは変化を始めている。(編集部・高橋有紀)

AERA 2020年11月30日号