グッチのファー関連商品の売上高は年間13億円という規模だったという。それを手放してまで脱毛皮の選択をした背景を松下さんはこう分析する。
「クリエイターやデザイナー、モデルや顧客などで、食を中心にヴィーガン志向を持つ人が増えていました。そういう人たちにとってみたら、ファーやレザーなど動物性のものを使っているブランドとは一緒に仕事をしたくないし、買いたくないですよね。エシカルな企業であることを打ち出すことで才能ある人々と仕事をするチャンスを掴み、クリエーションでもビジネスでもプラスにつなげたいという思いがあったと思います」
いま世界的に、新品の毛皮販売の禁止や毛皮農場の規制などの法整備が進み、技術の進化によってファーやレザーの代替品は高品質で作れるようになった。こうした動きが重なり、「代替のものがあるならそちらを選ぶ」流れが加速してきたのだ。
ヴィーガンファッションをテーマに起業した若者もいる。
LOVST-TOKYO(ラヴィストトーキョー)は唐沢海斗さん(28)がヴィーガンファッションセレクトショップとして2年前に創業。現在はオンラインストアの運営と並行してヴィーガン素材の代理店業務や商品開発サポートを行っている。
■本当にエコですか?
扱うのは、イタリアの会社が作るアップルレザー、メキシコのカクタス(サボテン)レザーのほか、コーンレザーなど植物由来の新素材だ。基本的に作り方は似ていて、アップルなら乾燥させてパウダー状にしたものを樹脂と合体させる。廃棄されるリンゴを使っていると聞き、「エコですね」と感心すると、
「ヴィーガンファッションだからと言って、必ずしもエコかというとそうではないんです」
と唐沢さん。原料に石油由来のポリウレタンを使っているから、という意味らしい。環境問題全体に視点を広げれば、非動物性だからオッケーという単純な話ではないのだ。唐沢さんはヴィーガンファッションを扱う中で「それって本当にエコなんですか」という問いをいつも突きつけられてきたという。