それでもこの事業を続けるのは、価値観のイノベーションを起こす、そのきっかけになると考えているからだ。

「僕らは、Follow forms.(形から入ったっていいじゃないか)をキーワードにしています。ヴィーガンでも、ファッションは食よりバイアスが少なくて、形から入りやすい。入ってみると、矛盾にぶち当たりますが、でもそこからの学びのプロセスが大事だと思っているんです」

■水鳥を救う新ダウン

 最近では家具から車メーカーまで様々な企業から問い合わせが相次いでいると言う。「ストーリーに共感してもらえても価格が壁になることが多い」と現状の課題を指摘しながらも、前向きにチャレンジを続けている。

 冬の定番アウター、ダウンジャケットにも代替の選択肢が登場している。「SAVE THE DUCK」、水鳥を救おうという直球の名前を冠したこのブランドはイタリア発。現在では世界30カ国以上で展開している。日本で同ブランドを取り扱う帝人フロンティアの安田樹人さんが説明する。

「イタリア人のニコラス・バルジが12年に立ち上げました。バルジはもともと環境保護活動家で、保護犬を20匹以上も引き取って飼うほどの動物好きです。冬の高級アウターといえばダウン。レザーには代替の製品があるのだから、ダウンでも水鳥を犠牲にしない代替の素材を作れないか、というところから始まったブランドです」

 一部のダウンの生産現場では、生きている水鳥の羽根をむしり取るライブハンドプラッキングという方法がいまだに用いられていて、その時に死んでしまう水鳥も多いという。

 SAVE THE DUCKは、羽毛の代わりにプラムテックという素材を使用する。ペットボトルを再生した微粒子をポリエステル繊維に絡めて作った高性能の新素材で、同社が独自に開発したものだ。従来のポリエステル製の中綿よりも軽量で、通気性・保温性などにも優れている。

「昨年にはクライマーのクンタル・ジョイシャーがSAVE THE DUCKを着てエベレスト登頂に成功し、機能性の高さが証明されました」(安田さん)

 ダウンの機能をしのぐものが、動物を犠牲にすることなく作れるようになったのだ、と安田さんは胸を張る。

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