加入者はDBで940万人、DCも750万人を誇るだけに、企業年金は会社員の大きな関心事だ。年金か一時金か、いったいどちらでもらうのが得なのか。
「一時金の強い味方は税制」と強調するのは、FPの山中伸枝氏だ。
「『退職所得控除』という制度を使えば、多くは無税で退職金全額をキャッシュで受け取ることができてしまうんです」
勤続20年までは1年で40万円、それを超すと1年で70万円が所得控除の対象として積み上がっていく。勤続年数が長いほど控除金額は多くなり、まさに今の「退職世代」の多くが体験してきた「終身雇用」にピッタリの制度だ。
ちなみに大卒社員で38年勤続とすると、「2060万円」(800万円+70万円×18年)を所得控除として退職金から差し引くことができる。つまり、退職金がこの金額以下なら税金はかからない。しかも、これを超えても、課税されるのは超えた金額の半分だ。
「こんなに優遇されている税制は珍しい。まずは、この制度をきっちり使い切ることが退職金戦略の基本になると思います」(山中氏)
一方、年金の強みは「運用」だろう。先述したように、年金制度のうちDBは会社が運用してくれる。しかも退職金に占めるシェアが高い。
「この超低金利の中、運用利率(企業年金では「予定利率」)がいいんです」(先の澤木氏)
企業年金連合会の「企業年金に関する基礎資料」から引用したDBの予定利率を見ると、2%未満のところが2割弱あるものの、約7割が2%台に集中している。3%以上の企業年金も15%程度ある。
「要するに退職金が増えていくんです。例えば、一時金で800万円もらえる場合、同じ800万円を予定利率2.2%のDBに預けると、年間50万円の年金を20年間受け取れる。一時金より総額で200万円も多くなる計算で、そんなに増える金融商品はどこにもありません」(同)
■一時金有利だが使い切る恐れも
お金が増えるのはいいことだ。しかし半面、年金で毎年収入を得ると、税金(所得税・住民税)や社会保険料(健康保険・介護保険)の負担が増す。税制面で「公的年金等控除」があるものの、65歳未満が60万円、65歳以上110万円とそれほど大きな額ではない。65歳から公的年金を受け取り始めると、収入がさらに増えて負担増の金額もふくらむ。
結局、すべてを加味するとどうなるのか。
大手流通業で企業年金を長年担当したクオリティライフデザイン研究所の岡田晃明主席研究員に、勤続38年の60歳社員が2千万円の退職金を受け取る場合の収支決算(単身で都内在住、手取りベース)を試算してもらった。