全額一時金でもらう場合は、退職所得控除が多くなって無税だった。つまり、2千万円を丸々受け取れる。
これを全額年金に回し、10年で受け取る場合はどうか。企業年金だけで見ると、年金給付利率(以下、利率)が2.5%だと年金のほうが有利だが、2%以下の総手取り額は一時金を下回った。公的年金の受給分を加えると、利率2.5%でも56万円、2%だと98万円、年金の手取りが一時金を下回ってしまう。
数字だけを見ると一時金が有利な結果だ。ならば即、「退職金は一時金でもらうべし」になりそうだが、そんなに簡単なものでもないようだ。岡田主席研究員が問題提起する。
「現金を持っていると、何があるかわかりません。“タンス預金”をしていて火事で燃えてしまうかもしれませんし、高齢者を狙った詐欺に遭ってお金を奪われてしまう可能性も。一方、定期的に年金で受け取る場合は、そんな心配はありません。例えば、利率2.5%で下回る分の56万円をどう見るかです。10年でこの金額。お金がなくならない月5千円程度の『安心料』と考えることはできないでしょうか」
確かに専門家には、人間の「業」を理由に一時金での受け取りを疑問視する声がある。先の澤木氏が、
「孫に大盤振る舞いをしてしまったり、金融機関の誘いに乗ってリスクの高い投資をして、短期間に多額の損失を出したりする人が散見されます。一度に大金を手にすると、人間、気が大きくなってしまうのでしょうか」
と言えば、企業年金に詳しいFPの山崎俊輔氏も、
「企業年金の役員として自分の会社の社員に退職金の使い方を指導していた人でさえ、いざ自分が退職すると1年ほどで、『一時金でもらった分を使っちゃった』と言っていたりします。『これは特別だから』などと理由をつけることで、出費を正当化しちゃうのです」
よほど“マネー・リテラシー”が高い人でないと、一時金を管理するのは難しいというのだ。
しかし年金にも、冒頭で紹介した母体企業の先行きに対する不安がある。そこは問題はないのか。
かつて日本航空(JAL)の経営破綻(はたん)をめぐり、退職社員の企業年金減額が問題になった。退職者の3分の2が同意すれば減額もできるが、先の岡田主席研究員によると、それでも退職者の年金を受け取る権利は強く保護されているという。
「母体企業が破綻してしまっても、規約で定めた給付を受ける権利は法律で保護されています。減額はもちろん一時金で清算するとしても、受給者の同意が必要です。受給権が強力に保護されていることがDBの特徴なんです」
ただし、JALのような経営危機にならない限り、退職者の企業年金に手をつける企業は少なそうだ。社員全体をDCに移行したソニーも、退職者に対してはDBでの年金支給を続けている。