バイデン氏が1月20日、第46代米大統領に就任する。米国や世界はどこへ向かうのか。トランプ氏とは何だったのか。AERA 2021年1月11日号で、フランスの人類学者・歴史学者のトッド氏が読み解く。
* * *
大野博人:まもなく米国でジョー・バイデン前副大統領が大統領に就任します。開票をめぐる騒ぎに目を奪われがちでしたが、トランプ大統領とは何だったのかということを考えておきたいですね。
エマニュエル・トッド:私は、トランプ氏の政治スタイルには不快感を持ちます。けれども彼は米国史の中で重要な大統領だったと思います。
トランプ氏がもたらした保護主義と反中国という方向は、歴史的な転換点になるはずだからです。
コロナ禍の前、米国経済は好調でした。トランプ政権下で世帯収入の中央値は急速に上がったし、貧困率が低くなるのも速かった。特に黒人はトランプ政権の受益者でした。経済政策はカタストロフをもたらしたわけではありません。もしコロナ禍がなければ彼は再選されていたでしょう。
あるいは、もし連邦最高裁の判事に原理主義的なカトリック教徒ではなく、ヒスパニック系の人材を任命していたら、勝っていたかもしれませんね。これは戦略的なミスでしょう。
大野:ただ私も彼の政治手法にはかなり抵抗がありました。
トッド:政治が大きく変わらなければならないときの問題は、考え方、イデオロギー、よい政治とは何かについての基準をどうやってひっくり返すかということです。
■時代が求めた「逸脱」
トッド:どの時代にも支配的な考え方があります。19世紀には、国家は後方に退いた方がいいというリベラリズムが広がり、1914年の第1次世界大戦や29年の世界恐慌へとつながっていきました。
そのあと、国家中心の考え方への転換がありました。第2次世界大戦からその後にかけて支配的でした。
それがまた変わったのは、米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相とともにネオリベラリズム、経済的な新自由主義が登場したときです。