そして、人びとがグローバル化に疲れた今、時代は再び国とか国民という場所に再結集しようとする局面に入りました。

 問題は、どんな政治家ならこんな転換を担えるかということです。右でも左でも政界には大勢順応的な人たちがうようよしています。考え方の転換が必要になると、少々逸脱した指導者を求める動きが起きるのです。

 たとえば米国のレーガン大統領は元映画俳優。黒人のオバマ氏が大統領になったのも驚きでした。実は、経済政策で保護主義的な転換を始めたのはオバマ氏です。景気対策に、米国製品の購入を求めるバイ・アメリカン条項を盛り込みました。

 トランプ氏も「らしくない」人物です。億万長者で、テレビタレントで、下品で粗雑です。それでも、エスタブリッシュメントとはちがった考え方ができた。

 世界恐慌のとき、リベラリズムにとらわれた欧州のエリートたちは、国家財政の緊縮くらいしか思いつかなかった。そこに、ヒトラーが登場する。大規模な公共工事をやり、軍備も進めて、数カ月で失業率をほとんどゼロにした。ヒトラーはもちろん完全に常軌を逸した人物ですが。

大野:あなたは、トランプ氏はオバマ氏の「後継者」だったともフランスのメディアに語っていますね。

トッド:オバマ氏はとても知的です。米国はもはや世界の主ではないとわかっていました。地政学的には中東や欧州よりアジア太平洋に軸足を移し、中国などに向き合うべきだと考えていました。けれど、黒人である故に「よき米国人」であることを示さなければならなかった。どうしても限界があった。遠くまで行けなかったのです。

■民主党の支持層は異質

大野:新大統領のバイデン氏には何を期待しますか。

トッド:ヒラリー・クリントン氏が示したような、自由貿易を重視する馬鹿げた考え方に戻らないことです。トランプ政権の最良の部分を引き継ぎ、それに上品で礼節をわきまえた装いを施してほしいのです。

 ただ考えておかなければならないのは、民主党の支持層はかなり異質な人たちの集まりだということです。

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