まず高等教育を受けながら奨学金の返済に苦しむ白人の若者がいる。黒人の支持層は、ブルジョアになった人もいる一方で、大多数はまだ最も恵まれない階層に属しています。この階層にはヒスパニック系も多い。他方、アジア系はより豊かな階層に属します。支持者たちの利害はかなり異なります。

 また党内左派のサンダース氏を支持したのは高学歴の若い人たちで、黒人はユダヤ系のサンダース氏をあまり支持しない。

大野:共和党支持層にはもう少し共通点があったのですか。

トッド:世論調査によると、大統領選挙での投票判断の動機について共和党支持者はほぼ一致して「経済」と答えています。マルクス主義者みたい(笑)。

 他方、バイデン支持層の投票の決定的な動機は二つ。一つはトランプ政権のコロナ禍対応への批判です。もう一つは人種問題です。争点が肝心の経済から外れてしまった。

 米国と世界との経済関係を変えるというのは実現可能な次元の話です。しかしバイデン氏の主張は、あいまいで不確実な世界への回帰を意味しました。

 コロナ禍という点で世界が不確実になるのに加えて、非現実的なのは人種という視点です。民主党はトランプ氏の経済についての考え方に人種政策を突きつけました。これは罪作りなことだったと思います。

 まずトランプ氏はヒトラーではありません。標的にしたのは黒人ではなくメキシコ人です。人種差別主義者ではなく外国人嫌いなのです。

 それに黒人差別は米国にとって本質的な問題です。人種によって人びとの態度が変わり歴史がつくられるという社会のあり方から抜け出す。それは米国の最も重要な課題です。

■政策でない反トランプ

大野:人種は政治論争のテーマにしにくいと?

トッド:大統領選挙での黒人の投票を分析すると、87%がバイデン氏に投票しています。一方で、黒人社会も経済的に階層化されつつあります。豊かな黒人も貧しい黒人もみんな民主党に投票するというのは、政治的に正常ではありません。

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