一方、厚生労働省も来年度に企業向けの対応マニュアルを策定する方針だ。西尾さんは国が対策に乗り出すことを歓迎しつつ、「消費者庁や警察庁も横断的に関わる必要がある」と指摘する。消費者庁の関与は消費者教育も必要なため、警察庁の関与は「最終的に警察が介入しないと収まらないケースがある」(西尾さん)ためだ。
臨場した警察官には、業務に支障が出ていることを伝えた上で「帰らせてください」と告げるなど、何をしてほしいかを明確に伝えるほうがスムーズに対処してもらえる、という。
西尾さんは、カスハラ対応で最も重要なのは経営者の意識を変えることだ、と強調する。
「カスハラ対応は時間的にも経済的にも従業員のメンタル面からも経営上のロスであることを認識することが重要です。『お客様は神様』という意識を変えてもらわないといけない」
前出の池内教授の研究では、カスハラの加害者の特徴として「顧客第一主義が絶対」という教育を受けてきた人も挙げられるという。池内教授は日本の消費者文化に根強い「過剰サービスによる過剰期待」の問題点を指摘する。
「おもてなしの文化」が定着している日本の消費者は手厚いサービスに慣れ親しんでおり、期待値が高い。このため企業側は消費者の期待に応えようとサービスが過剰になる。サービス合戦が続くと、それについていけなくなる企業も出てくる。
「そうなると消費者の期待値も上がってしまっているので、『期待不一致効果』が生じて期待と成果の差が大きくなって不満が募り、苦情につながります」(池内教授)
「お客様は神様」という日本の企業風土について池内教授は、「コロナ禍は変えていくチャンス」と提言する。
「社会的距離を取るのがニューノーマルとして定着している今、人と人との間の物理的な距離だけでなく、社会的、心理的な距離も快適さ、適切さがどこにあるのかを探る中で、過剰サービスも見直す時期に来ているのでは」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2021年1月18日号