池内教授の過去の調査事例だと、カスハラ被害は小売店など主に女性が第一線で客と接する職場で目立つ。女性が多いことで「筋論クレーマー」の男性は余計強気になる面もあるという。

「人間も動物ですから瞬時にこの人より自分は強いか弱いかを考え、自分のほうが強いと判断すると、より攻撃的になってしまいます」(同)

 一方、女性のクレーマーが多いのがアパレル関係だ。明らかに使用したとみられる下着でも、サイズが合わないから、と交換を迫ることも。

「女性は損得の損の部分に目がいきやすい上、被害者意識が強く、何が何でも自分の思いを通そうとする傾向があります」(同)

■「期待」に応えようとする過剰サービスが苦情を誘発

 カスハラは今に始まった問題ではない。企業の危機管理を支援する「エス・ピー・ネットワーク」がクレーム対応経験のある社員を対象に実施した19年の調査によると、カスハラが直近3年間で「とても増えている」「増えている」と回答したのは55.8%に上った。

 20年間にわたって悪質クレーム対応を担当してきた同社の西尾晋上席研究員(45)は、「以前は『モンスタークレーマー』という言葉にも表れていたように、悪質クレームは特殊な人による行為と認識されていました。それが一般化したことで特定の人を指す呼称よりも、言動に着目した『カスタマーハラスメント』という言葉が定着するようになりました」と話す。

 異物混入や産地偽装など企業のモラルやサービス態勢の低下もカスハラを一般化させた背景要因に挙げられる。

「もちろん企業や現場の店舗側に不備や問題があるケースもあります。顧客の不満や要望は売り上げ向上のヒントにもなりますが、一方で不当な要求は断ってもいいという原則を具体的な事例とともに社内で徹底しておくべきでしょう」(西尾さん)

 同社は20年5月、コロナ禍のカスハラ被害を防止しようと小売業などの店舗を持つ企業向けに「対応ガイドライン」を作成した。この中で、スマホなどで従業員の様子を撮影する人に対しては「施設管理権」を盾に店内での撮影を断る措置が可能なことや、土下座を強いる行為は「強要罪」に当たる可能性もある、と解説。場面ごとの対応ノウハウを提示している。

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