操作がうまくいかず、いら立ちを募らせたユーザーから「24時間対応しろ」「プログラムを直せ」と怒鳴られることが絶えなかった。ログインパスワードの入力を誤ってログインできない男性は「俺は社長なんだぞ」と電話口で怒りをぶちまけた。
女性は約10年間、正社員として勤務していたが、解雇を告げられたときは精神的にも限界だったという。
「もうあの仕事をしなくていいんだと思うと正直ホッとしています」
顧客が従業員に威圧的な言動や理不尽な要求を突きつける「カスタマーハラスメント」(カスハラ)。以前から社会問題化していたが、コロナ禍でより深刻化している実態が関西大学の池内裕美教授の調査で浮き彫りになった。
調査は直接、間接的に顧客とかかわる仕事に従事する20~70代の300人を対象に20年11月に実施。新型コロナウイルスの感染拡大以降、カスハラ行為が増えたと回答した人は「やや増えた」13.7%、「増えた」8%を合わせて2割超。感染拡大に伴い、新型コロナと関連するカスハラ行為を受けたことがある、と回答したのは「よくある」6.7%、「今はないが以前はよくあった」1.7%、「時々ある」16.3%、「今はないが以前は時々あった」10.7%を合わせて約35%に上った。ここでいう「以前」とはWHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言した3月11日以前を指す。
カスハラ行為の内容に変化があったか、との質問には「些細なことで激高する(キレる)人が増えた」24%、「感情的な苦情が増えた」21%、「無理難題な要求が増えた」14.7%との回答が上位を占めた。
池内教授はこうしたカスハラの「質」の変化に着目する。
「10年ほど前の調査時は『論理的な苦情』の増加が問題視されましたが、今はより感情的な『不満発散型のクレーム』の増加が特徴に挙げられます」
池内教授はコロナ禍の社会は「不満の巣窟」だと指摘する。私たちは格差や過重労働による従来のストレスに加え、コロナ禍で急激な行動制限や行動変容を強いられている。
「慢性的な不満の上に突発的な不快や不遇に遭遇し、それが瞬発的な怒りになってカスハラに結びつくという流れが一つ考えられます。怒りの沸点が常に低い水準だったのが、コロナによってさらに低い水準になっています」