「最後まで背をぴんと伸ばして働き続けた祖母がおり、ずっと尊敬していたんです。社員時代にその同世代のお客様に対応した時になかなか物件が見つからなかった。契約まで時間がかかり、孤独死のリスクもあるので高齢者は嫌がられるんです。その姿が祖母と重なり、変えたい、と思ったんです」
そこでR65で高齢者への仲介を始め、事故物件ニーズの有無を探る狙いで19年に事故物件の賃貸不動産サイト「ポックリ物件.com」を開設した。これが潜在的なニーズを可視化した。
問い合わせの数は立ち上げ直後に月200件、コロナで人の動きが止まり低調なはずの現在も月に10件ほど来る。「需要はある。今は売買のニーズも調査中」と山本さん。この点、成仏不動産も同じような問題意識を持っており、事故物件と高齢者のマッチングも始めている。
年を追うごとに事故増加のリスクは上昇している。
厚生労働省統計によると、01年に24.1%だった全世帯に占める一人暮らし世帯の割合は19年で28.8%。孤独死は政府統計はないが、例えば東京都23区内では17年までの15年間で倍増した。成仏、ポックリとも管理物件で40代などの孤独死も発生事例があり、「派遣と派遣の合間に亡くなるなど、雇用形態の違いも発見の遅れにつながっている」(ポックリの山本さん)ともいう。
現在の懸念はやはりコロナだ。経済不安や孤立化リスクが連鎖するなか、すでに解雇や雇い止めは8万121人(1月6日時点)。昨年7月以降の自殺者数も5カ月連続で前年比を超えている。このような事態を防ぐため、成仏は独居者向けに電力使用の変化で見守る「おまもりサポート」の提供を開始。ポックリも新電力などと協力し、フットライトの状況や電力使用量で見守る仕組みを高齢者の賃貸向けサービスとして提供しているという。
これから何を目指すのか。実は成仏の花原さんは起業前に父親を亡くしており、その際の葬儀業者の対応に感銘を受けたのだという。「対応によって死への印象、抵抗感が変わった。事故物件も許容する人が出てきている。嫌われる物件から『選択できる物件』に変えたいんです」。一方のポックリの山本さんはこう語った。
「住まいに関してはまだまだ高齢者や孤独死に対する偏見がある。自分自身が老後を迎えた時、住まいに選択肢がある社会であってほしい。そのために取り組んでいます。ポックリもR65もいらない社会にするのが目標なんです」(朝日新聞経済部記者・鳴澤大)
※週刊朝日1月29日号に加筆