「告知事項あり」。孤独死などが発生した不動産は売買や賃貸に出された際にそう表記される。いわゆる「心理的瑕疵(かし)物件」、通称「事故物件」と呼ばれる不動産だ。一人暮らし世帯が増えた末に顕在化し、新型コロナウイルスの感染拡大による貧困の拡大も増加に拍車をかけかねない。そんな嫌われ物件のイメージを変え、生き返らせようと不動産業界の新勢力が動き始めている。
「この階の奥の部屋が叔母の部屋です」
最寄り駅から徒歩10分の東京都新宿区内にあるマンション。その3階の部屋にあるベッドで昨年の9月初め、独居の女性(85)が亡くなっているのが見つかった。安否確認で月二回通う区の冊子配布員が玄関先に残ったままの宅配荷物を不審に思い、連絡したという。荷物はコロナ予防に使うマウスシールド。おいの50代男性が駆けつけた。
警察の死亡推定は8月10日前後。以前は男性が時折様子を見に訪れては日暮れまで話をし、一週間前においと話した電話口でも声は張り、死はあまりに突然だった。愛用のiPadにあったのはコロナへの不安をつづったメモ書き。最終更新は8月11日午後11時台だった。
女性はミシンが得意で何でも自分でやる人だったという。発見時も部屋はきれいに整頓され、普段からマンションの価値が落ちないよう周辺のゴミ拾いもしていた。叔母はその部屋をおいに譲りたいとの遺書を残していた。「コロナになってからは直接会うのは控え、もっぱら電話。ずっと会えないで亡くなったんで、心残りです。元気な人ほど孤独死のリスクがあるような気がします」。
さらなる追い打ちとなるのはこうした事故物件をめぐる環境だ。自然死のほか、自殺や他殺、反社会的勢力の近接地などにも使われる通称だが、実は明確な定義はない。まとまった取引もデータも持たない金融機関の理解は不十分で、評価も良くない。それゆえ売買では言い値で決まるケースもあるという。
「事故物件の扱われ方は何か変だ」。偶然舞い込んだ件の取り扱いを検討するうちに疑問を持ったのは、不動産スタートアップの「MARKS」(横浜市)。同社を率いる花原浩二さん(43)は大手住宅メーカーの営業出身。社員当時は新築分譲をしつつ「同時に空き家を増やした」との悔いがあり、空き家の改修、活用を志して起業した。さらに賃貸、売買向け事故物件サイト「成仏不動産」を2019年に開設。昨春から「不動産検索の事故物件版のようなスタイル」に拡大させた。