漫画家、エッセイストの東海林さだおさんと落語家の春風亭一之輔さん。かねてからお互いの連載のファンであったため、直接聞いてみたいことも多々あったようで……。
>>【前編/落語家は「すすり芸」だけを見せるのは嫌? 春風亭一之輔が明かす】より続く
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春風亭一之輔(以下、一):今日これだけは聞こうと思っていたんですけど、このあいだ、「コボちゃん」(読売新聞朝刊連載の4コマ漫画)が東海林さんの「アサッテ君」(1974~2014年、毎日新聞の朝刊に連載された4コマ漫画)の連載回数記録を抜いたじゃないですか。ああいうのムカつきます?(笑)
東海林さだお(以下、東):まったく(ムカつかない)。僕ね、過去のことはほんとどうでもいい、という生き方。性質というか。過去のことにかまっていられない。どんどん忘れるし。
一:忘れるんですか(笑)。でも「コボちゃん、おめでとう」みたいな絵を描いていらっしゃいましたね。
東:あれもね、読売から「コボちゃんにひと言」って依頼がきたんで。断ったら、おかしいでしょ。
一 :ちっちゃい男みたいな(笑)。
東:そう。最初は迷ったけど。
一:悔しいと思ってんな、と思われちゃうような。
東:思ってないから余計しゃくなんですよ(笑)。
一:(コボちゃんへのメッセージを)文じゃなくて絵で表現されていたんで、面白いなって。
東:あれ、いいでしょ(笑)。でもほんと、過去のことはどんどん忘れていく。
一:忘れるといえば、こんなに長く連載されていると自分で書いた内容、忘れちゃいませんか。
東:忘れます、ほとんど忘れます。特に新聞をやっているときは、何万回になると覚えてないですよね。一回ね、小学校4年生の女の子から投書が来ましてね。「私は必ずスクラップ取ってます」って。まったく同じものが2枚、送られてきて。
一:同じことを描いた証拠を突きつけられた(笑)。
東:すみませんって、手紙を書きましたよ。でも漫画家はみんなこういうこと、あるらしいですよ。
一:僕なんてまだ300回程度なのに、「あれ、同じこと書いているな」ってあります。
東:特に年をとってくるとあるらしい。小説家でもあるそうですよ。随筆頼むと前と同じの書いてるって。
一:でもどうせ読んだ客(読者)は、覚えてないだろうって。
東:いや、これがね、覚えている。
一:子どもは覚えているかもしれないけど(笑)。僕らは古典落語で、同じ話を何度もしているんで。