東:そう、あれはね、楽ですよ(笑)。

一:楽なんですよ。何度聞いても面白いのが古典落語だっていう(笑)。

東:変える必要もない。

一:変わるんですけどね。ちょっとずつ、年を経てやる度に。そこが面白いところなんです。

東:漫画とまったく逆のことをやっている。漫画は同じことは駄目ですけど、落語は必ず同じこと。

一:確かに。漫画や原稿はずっと残るから大変。落語はあとに残らない。録音とかしないなら、その場かぎり。

東:だから磨いていく、ってことですよね。同じものを。

一:そうですね。無駄をそぎ落として、また無駄なものをくっつけたりして磨いていく。

東:そこがうらやましい。必ず良くなっていくわけでしょ。

一 いや、そんなこともないです。昨日はすごく良くできたのに、今日は全然駄目ということもあります。お客さんも変わりますし。天気や温度でも。暖かいときはお客さんはよく笑う、とか。

東:なるほど。

一:今コロナ禍で、緊急事態宣言が出ても、お客さんが来るんですよ。それで、どうかしちゃったんじゃないかっていうぐらい笑う。どうしてでしょう。

東:役割。

一:役割!? 追いつめられると笑う、と。

東:いや、そうじゃないでしょ。自分が笑わないと場が盛り上がらないという責任感。

一:責任感? じゃ、僕は笑っているのを真に受けて喜んでいただけなんですね(笑)。

東:むしろ負担をかけているんですよ。

一:良いほうに落ちをつけようとしていた自分が恥ずかしいです。奇特な人たちですね(笑)。

東:貴重ですよ。お金を(こちらが)あげなきゃいけない。

一:誰がやるかっ(笑)。

東:こんな時だから笑いたい、という思いもあるのかもしれない。

一:かもしれませんね。東海林さん、今日はありがとうございました。

(構成/本誌・工藤早春)

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ) 1978年、千葉県生まれ。落語家。日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、21人抜きの大抜擢(ばってき)で真打ちに昇進した。以降、寄席を中心にテレビ、ラジオなどでも活躍中。

東海林さだお(しょうじ・さだお) 1937年、東京都生まれ。漫画家、エッセイスト。早稲田大学露文科中退。67年「新漫画文学全集」で連載デビュー。2000年、紫綬褒章受章。01年、「アサッテ君」で日本漫画家協会賞大賞受賞。11年、旭日小綬章受章。

週刊朝日  2021年2月5日号より抜粋

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