養子縁組や知人からの精子提供も検討したが、夫や周囲と意見が合わず断念した。ちょうどその頃、デンマークの精子バンク、クリオス・インターナショナルが日本への輸出サポートを始めたことをAERAの記事で知った。

 海外精子バンクなら身元情報を開示するドナーを選べるので出自を知る権利が守られるし、顕微授精も選択可能だ。高い英語力がないと利用は難しいと思ったが、クリオスは日本語対応を始めていた。夫も「自分と血縁がない子どもだからこそ、自らドナーを選ぶことで父親になるため腹を括りたい」と考えており、海外精子バンクの利用に賛成だった。夫婦で利用を決め、提携クリニックで顕微授精を実施。現在は妊娠5カ月だ。

 クリオスの日本事業を担当する伊藤ひろみさんは言う。

「生まれてくる子どものため、告知を当然として連絡をくださる方は多いです」

 同社が日本語対応を始めた2019年2月以降、国内の利用者は150人を超えるが、うち約7割が身元開示ドナーを選んでいるという。特に利用者の半数強を占めるシングル女性は、将来子どもから出自について聞かれる可能性が高いこともあり、身元開示ドナーを選択する傾向があるという。

■物心ついたときから

 松村さんが唯一悩んだのはドナーの人種のことだった。クリオスの拠点は欧州と米国にあり、日本人と見た目が近いアジア系のドナーは多くない。日本人ドナーは1人だけいたが身元非開示だった。松村さん夫婦は結局、夫と似た雰囲気の欧州系の身元開示ドナーを選んだ。同じように、欧州系のドナー精子で子どもをもった日本人家族の幸せそうな写真を見たとき「見た目の違いは気にならない」と感じたからだ。

「日本では残念ながら見た目が違うせいで子どもがいじめられる話を聞きますが、もしものときにはインターナショナルスクールに転校してもいいし、引っ越してもいい。そのとき子どもに必要な環境を選んでいくつもりです」(松村さん)

(ライター・大塚玲子)

AERA 2021年2月8日号より抜粋

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