一月三十日付の朝日新聞beに『この1年で音楽CDを買いましたか?』という記事があった。それによると、昨年上半期、米国ではレコードの売り上げがCDを上回った、とある。CDの退潮は知っていたが、まさかそこまでとは、と驚いた。わたしが学生のころはレコード全盛時代で、一枚千八百円のLPレコードを買うには、一日のバイト料が必要だったから、音楽雑誌を読んではブルースロック系の名盤とされるものを少しずつ蒐(あつ)めていった。

 そう、レコードは高かった。高い上に扱いが面倒で、好きな曲は何度も聴くから傷がついて雑音が増える。しょっちゅう裏返さないといけないし、針も擦り切れる。カートリッジもけっこうな値段がした。

 CDを初めて聴いたときは感動ものだった。レコードのような雑音がない。スキップもリピートもボタンひとつでできる。レコードを聴くことはなくなり、次々にCDを買ってラックに並べていった。

 beの記事に触発されて久々にレコードを聴いた。

 ジャニス・ジョプリンの『パール』。CDより音が奥深いというが、わたしの耳では聴き分けができない。が、このレコードを買った思い出は蘇(よみがえ)った。芸大の三回生のころだ。祇園のクラブでウェイターのバイトをしていたとき、河原町のレコード店で買い、よめはんとふたりで聴いたのだ。

 レコードにはそんな思い出が染みついている。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2021年2月19日号

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