授乳中は薬が飲めないと思い込んでいる人も少なくない。
会社員の女性(36)も子どもが生後4カ月の頃、親知らずを抜歯した。歯科医師から、抗菌薬や鎮痛剤を出すので授乳はやめるよう言われ、急な断乳で乳腺炎になってしまったという。
「授乳中に気をつけなければならない薬は抗がん剤や放射性物質など限られていますが、授乳中は薬を飲めないと誤解している人が医師にも多い」
と指摘するのは、国立成育医療研究センターの村島温子医師。
「妊娠中、お母さんと赤ちゃんの薬の血中濃度はほぼ同じですが、授乳中は飲んだ薬が母乳に移行し、さらにその母乳を飲んだ赤ちゃんの血中に出る量となると検出されないほどわずか。しかし、日本の薬の添付文書には微量でも母乳に移行すれば授乳中止と記載されています。その結果、安易に母乳を中止させる医師や、授乳を優先し服薬を諦めるお母さんがいるのです」
■ホームページに薬一覧
薬の服用のために一時的に授乳をやめると、母乳が出なくなるリスクもある。村島さんがセンター長を務める「妊娠と薬情報センター」では、ホームページに授乳中に飲める薬と飲めない薬の一覧を掲載。2017年からは妊娠・授乳中の薬剤使用に関する最新の知見を添付文書に反映するための取り組みも行っている。今後は正しい知識を持って、授乳中の薬の服用相談にのる薬剤師を増やすための研究会を始めるという。
産後の母親たち自身が正しい知識を持つことも必要だ。
「お母さんの健康状態が良いことは赤ちゃんにとっても大切なこと。ぜひお母さん自身にもホームページを活用し、『ここにはこの薬は大丈夫だと書いてありますよ』と医師に伝えたりしながら授乳と薬の服用を両立できる道を探ってほしい」(村島さん)
(編集部・深澤友紀)
※AERA 2021年3月8日号