ツボを刺激することで健康増進などを促す「鍼灸」。近年、その鎮痛作用のメカニズムが解明され、発表された。

 実は、欧米では「代替医療といえば、鍼灸」というほどポピュラーな治療だ。スペインが生んだ天才画家ピカソも、持病の坐骨神経痛をフランスの鍼治療で治して以来、鍼の愛好家になり、晩年まで絵を描き続けた。このエピソードは鍼灸業界ではかなり有名だという。

「世界中で報告された鍼灸の研究論文の数は、代替医療の中で最も多く、なかでも2010年に鍼の効果について報告された論文は、米科学誌『ネイチャー・ニューロサイエンス』にも掲載されました」(北里大学東洋医学総合研究所漢方鍼灸治療センター副センター長・伊藤剛医師)

 権威ある科学誌に掲載されたのは、米国の医師による研究。マウスによる実験で、「足三里」というツボ刺激による鎮痛作用のメカニズムを突き止めたという。科学的に認められている鍼灸の効果には、どんなものがあるのだろうか。

「わかりやすいところでは、『三陰交』というツボを刺激すると、子宮や卵巣などの血流が増すことや、『足三里』を刺激すると胃の動きが活発になることなどが証明されています」

 これ以外にも、腰痛や頭痛、歯の痛み、肩こり、関節痛、吐き気・嘔吐(おうと)、喘息(ぜんそく)など、さまざまな症状で有効性が報告され、かなり具体的なメカニズムもわかってきている。

 しかし、ツボはもともと中国の東洋医学的な概念に基づいて決められているはず。なぜツボを刺激することで、体にこのような反応が起こるのだろうか。

「そもそも古代からの中国医療では、『気』と呼ばれる生命エネルギーが体内を流れ、それが滞ったり、不足したりすることで病気が起こると考えられていました。鍼灸では気の通り道を経絡、外界との出入り口を経穴ととらえ、それらを刺激することで、気を巡らせて自然治癒能力を高めていました。こうした考え方を科学的に検証してみたところ、驚くことに、ツボには外部刺激を受け取る『感覚受容器』という神経のセンサーがあることがわかったのです」(同)

 神経のセンサーが刺激されると、その信号は神経を介して脊髄や脳に伝わり、筋肉や内臓に作用したり、鎮痛物質(脳内モルヒネなど)を分泌したりする。また、自律神軽やホルモン、免疫機構にも影響を及ぼす。古代の人はそれを無数の経験から知り、医療として体系をつくっていったということだろうか。

週刊朝日 2013年5月3・10日号