「小さな会議室に40代50代の小説家志望者が20人くらい集まっていました。そこに僕が一人迷い込んだわけです。井上先生は一升瓶を横に置いて注いだ酒をガーッと飲みながら、すごい迫力でみんなをバンバン怒っていらっしゃいましたね。でも僕には優しかったです」
1泊して翌日も指導を受け、帰るときに礼を言うと、井上は和合にこう言った。「すべてを疑ってかかれ」「書いて書いて自分を作っていくんだぞ。ただし文学賞はもらうな、堕落する」
「もらっちゃいましたけど(笑)。井上先生との出会いは片時も忘れたことはありません」
井上の言葉は和合を根本から揺さぶった。取り憑かれたように書こうと思った。書いた詩をコピーしては、大学の最寄り駅の前で道ゆく人に配る姿が同級生に目撃されている。雑誌への投稿を始め、詩の雑誌「現代詩手帖」に作品が掲載された。「現代詩手帖新鋭詩人」にも選ばれた。
(文・千葉望)
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