[大喝采→笑→小笑→沈黙→沈黙→沈黙→かしわで]。ざっと20分の流れはこんなかんじ。特に最後の沈黙はオチ。「隠居さん、私は朝顔みたいに可愛いですかね。『朝顔や釣瓶とられて~』だそうです」「それは『加賀の千代』だ」「いや、『カカァの知恵』です」。お客全員の頭上に『ポカーン』という字が見えた後に、かしわでのような拍手。「ありがとうございました。えー、いかがでしたか。次回おいで頂く際にはもっと笑いの多い落語をお願いしましょう」とMさん。オレ、言ったよね……。

 あれから15年。今では私『加賀の千代』を意外と得意ネタにしている。今年の正月のNHK寄席中継でやってみたら、Mさんからメールが届いた。「ご無沙汰しています。NHK拝見しました。『加賀の千代』という落語があるのですね。驚きました。是非今度生で聴かせてください!」

 あのときの『加賀の千代』無かったことになっているのか? はたまた……。いまちょっと返信に困っている。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中

週刊朝日  2021年3月26日号

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