相次ぐ不祥事、コロナ変異株拡大、届かぬワクチン。このままで本当に東京五輪は開催できるのか。神戸大学大学院教授で医師の岩田健太郎さんに話を聞いた。
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現状を考えると、私は東京五輪を開催しないほうがいいと思います。
仮に開催する場合、日本に今存在しない新型コロナの変異株の海外からの流入と、その全国への拡散という二つのリスクにどう対処できるかがポイントです。
IOC委員やスポンサー、メディアなど海外から渡航する五輪関係者が、アスリートに課せられたのとまったく同じ条件で厳しい隔離対策や繰り返しのPCR検査をすべて順守するのであれば、外からの持ち込みはかなりの確率で防げるとは思います。ただ、フランスでPCR検査をすり抜ける新型コロナが出ているので、この影響がなければという留意点はあります。
さらなる問題は、全国から集まるスタッフとボランティア。人の移動が感染を広げるリスクになることはすでにわかっているのに、その人の動きが万単位で一斉に起きるイベントを開いて、感染リスクを回避するのは非常に難しいと思います。
安心安全な開催をうたうなら、国内も無観客にしないと無理でしょう。全国から集まる観客の行動を制限するのは現実的ではありません。ワクチンも、今のペースでは五輪までに集団免疫を獲得できるレベルまで普及する可能性は非常に低い。
特に日本では、ワクチンの注射は医師によってしかできないという縛りが足かせになっています。米国では医者以外もワクチン注射ができますし、英国ではトレーニングしたボランティアも注射ができます。ワクチンを普及させるという目的がしっかりしているからです。日本は手続きありきで、目的が明確ではない。現行の法律では、医者以外が打ってはいけない規定はないんです。ワクチン接種担当の河野太郎大臣が強いリーダーシップが取れるのかは注視したいところです。
3月18日に菅義偉首相が緊急事態宣言の解除を決め会見しましたが、空虚なものでした。政府が示した五つの方針のうち、PCR検査の拡充にしても、変異株の監視体制の強化にしても、調べた先にどう抑え込むかがはっきりしません。ただ「増えましたね」と報告するだけでは感染は減らない。緊急事態宣言を解除した後の、具体的な感染減のビジョンが見えません。
現状のままでは五輪開催はインポッシブルなミッション。ワクチンを打っていなくてもOK、第4波の真っただ中でもやります、という姿勢で突き進むのであれば、五輪本来の精神に反するのではないでしょうか。
(本誌・秦正理)
※週刊朝日 2021年4月2日号