タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
【写真】NHK・Eテレの「ハートネットTV」は、女性差別を巡る不適切な発言を公式ツイッターで撤回し謝罪
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「女性差別ってこんなに世間が騒いでくれてうらやましい。障害者差別えげつないことたくさんあるのに。(中略)本当は女性差別なんて生っちょろいぞと思うんだけど、世間は(障害者差別には)あんまり騒いでくれない」
3月22日放送のNHK・Eテレ「ハートネットTV」での、大胡田誠弁護士の発言です。森喜朗氏の女性差別発言は大きな騒動になるのに、障害者差別は注目されないと訴えました。障害者も女性も、差別されてはならない同じ人間です。大胡田氏は、なぜ女性差別を矮小(わいしょう)化するのでしょうか。これまで多くの女性や障害者がさげすまれ、暴力を振るわれ、命を奪われています。私も女性であり、発達障害の当事者です。どちらが理由でも差別はつらいし、いずれも同様に深刻です。「女性差別なんて生っちょろい」と一方を軽んじるのは、差別を助長してしまいます。それでは「障害者よりもしんどい健常者はたくさんいる」と突き放す物言いと変わりません。
番組は放送でこのくだりを字幕で強調し、司会も反論しませんでした。番組Twitterでは前日に「女性差別問題を『生っちょろい』とぶった切る!?」と見出しをつけて当該部分の動画を拡散しました。私も以前「ハートネットTV」に出演したことがあります。いろいろな立場の人の思いに光を当ててきた信頼する番組がなぜ、と本当に悲しかったです。
大胡田氏は謝罪を表明。番組では「自分でもゆがんでいると思うんだけど」と前置きしていましたが、ゆがみを自覚していることは、言い訳にはなりません。障害者差別をもっと知ってほしいという真摯(しんし)な気持ちを、女性への攻撃に変えないでほしい。ジェンダー、人種、病気、障害、階層、性的指向など、あらゆる差別をなくそうと一緒に言えば、声はもっと大きくなるはずです。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2021年4月5日号