鉄珍の息子の願鉄(がんてつ)は、蛇柱・伊黒小芭内(いぐろ・おばない)の「波打つ刀」を作っており、息子もまた技巧に優れた刀鍛冶であることがわかる。

 鉄穴森は、前述の通り、伊之助の担当者であるが、霞柱・時透無一郎の刀も作っている。しかし、無一郎の刀剣製作者は、もともとは鉄穴森ではなかった。

■時透無一郎のための2人の刀鍛冶

 無一郎の刀師は2人いた。現時点では鉄穴森だが、心臓病で亡くなった「鉄井戸(てついど)」という男がいた。

<誰が分かってくれようか お前さんのことを お前さんがどれだけ手一杯か どれだけ限り限りと(ぎりぎりと)余裕がないか 物を覚えていられんことの不安がどれだけか そして血反吐を吐くような努力を 誰が分かってくれようか 儂はお前さんが使った刀を見ると涙が出てくる>(鉄井戸/14巻・第119話「よみがえる」)

 無一郎は、かつて鬼に双子の兄を惨殺され、自分も重傷をおった。目覚めてからの無一郎は、記憶が欠損しており、その後の出来事もすぐに忘れてしまう後遺症に悩まされる。燃えるような怒りと、心が凍るような悲しみを抱きながらも、その原因が何であるのか、はっきりわからない。

 そんな無一郎の悲しい惑いを、刀鍛冶・鉄井戸は、鍛刀のやりとりを通じて受け止めた。鉄井戸が日輪刀に込めた、無一郎への思いやりは、やがて次代の鉄穴森へと引き継がれる。当初は鉄井戸の記憶も、なかなかつながらない無一郎であったが、それは決して「忘れた」のではなかった。刀鍛冶の思いを乗せて、無一郎のために作られた、唯一無二の刀が、彼の運命を切りひらいていく。

■記憶、継承の象徴としての「刀」

 刀鍛冶たちには、彼らの間で言い伝えられている「記憶」の物語がある。これは、『鬼滅の刃』における「継承」の重要な特質をあらわすエピソードだ。

<それは記憶の遺伝じゃないですか? うちの里ではよく言われることです><経験してないはずの出来事に覚えがあったり そういうものを記憶の遺伝と呼びます>(小鉄/12巻・第103話「縁壱零式」)

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刀剣に刻まれた「滅」の重み