──フリーの演技は予想外でしたか。
細かい技術的なことや、当日の調子という分析は、結弦自身がよくわかっていて取り組むでしょうから、それを指摘するつもりはありません。むしろ私からすると、本当によくやった、よくこのシーズンを耐え抜いた、とたたえたい演技でした。もし1年間一緒に練習をし、いくつもの試合をこなし、この試合に準備してきていたなら、「このミスの原因は……」とか、違う気持ちで見ていたかもしれません。でも彼は、1年間コーチなしで、独りで戦ってきたんです。そして試合だって全日本選手権の1試合しかなかった。それでもファンのため、来季の枠取りのため、彼は滑りましたよね。そして七つ目の世界選手権のメダルを手にした。残念な結果だなんて言わないでください。この条件下でメダルを取るなんて、結弦にしかできません。
──ネイサン・チェンは珍しくショートでミスをし、フリーはパーフェクトでした。
ネイサンは、結弦とは真逆の条件下でした。コロナのために大学はリモートになり、カリフォルニアに滞在してコーチと毎日一緒に練習できるようになりました。むしろこれまでのシーズンよりも、練習環境としては改善されていたわけです。試合もスケートアメリカと全米選手権がありました。もちろんネイサンの技術は素晴らしいです。フリーで巻き返してくることは、予想の範囲でした。
■心理戦勝ち抜いてきた
──来季、羽生選手は、4回転アクセルの成功を目指します。
昨季は一緒に練習してきましたが、この1年はどんな練習内容で、どんな完成度まできているか、私はわかりません。結弦にとって4回転半は、大きな意味を持つ技です。数々のインタビューで、跳びたいと宣言を繰り返してきているのを見ていますしね。私にもいくつかのアイデアがありますが、いまそれが必要なタイミングなのかは、結弦が決めることです。彼にとってはどう自分自身と向き合うか、アプローチを大切にしているんだと思います。もちろん、いつでも助けられるよう心の準備はしています。