役を掘り下げるとき、共演者とのやり取りの中でキャラクターが浮き彫りになることもあるが、周りには知る由もないところでやらなければいけない孤独な作業もある。
「たとえば、今回のような、“人生のどん底にいる、うだつの上がらない中年のタクシードライバー”を頭の中でイメージしたとき、その『どん底』を深掘りするには、自分がどん底だったときのことを思い出すしかないんですよ。タンスの奥に突っ込んでおいた、自分に自信がなくて不安だったときにまとっていたものを、もう一回引っ張り出して、『これ、着られるかな?』と鏡の前で合わせてみる、みたいな。本当にそんな地味な作業なんです」
四半世紀以上前、テレビに登場したその瞬間からスターのオーラをまとっていた印象のある窪塚さんも、転落事故のあとは、くすんだ色の服や、ボロボロの服を身にまとい、それを心のタンスにしまい込んだ。華やかなだけではない、そのくすんだ体験も経て中年の悲哀もリアリティーを持って表現ができているということだろうか。
「この間のワールドカップのときかな? ある海外のサッカー選手が言っていたことがすごく印象に残りました。『自分の弱点や嫌なところに気づいたとき、いったんは落ち込むんだけど、そのときが、自分を俯瞰で見つめられるチャンスだ』みたいな感じのことを話していて、それって俳優も同じだな、と。葛藤の真っ最中には、その痛みを感じるだけで精いっぱいで、そこから早く抜け出したくて必死なんだけど、いざ俯瞰になってみると、『あの経験は無駄じゃなかったな』なんて思う。経験をすべて肥やしにできるのは、役者だけじゃなくて、人間みんなそうだと思うんです」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※記事後編>>「窪塚洋介「腸活」の布教活動中? 『寝る前3時間は食べない』」はコチラ
※週刊朝日 2023年2月10日号より抜粋