参院選「圧勝ロード」を突き進む安倍自民党の敵は目下 “株価”だけのようだ。一方、「慰安婦」問題で橋下維新は“沈没”、「改憲」勢力は3分の2に届かず、自民党は作戦変更を強いられた。“永田町の千里眼”である政治評論家の森田実、時事通信社解説委員の田崎史郎両氏が選挙結果と今後の政局を対談で予想した。
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森田:衆参ダブル選挙の話が飛び交っています。
田崎:4月初めから、安倍晋三首相、石破茂幹事長、菅官房長官が可能性をにおわす発言をしていました。それを民主党の前原誠司前国家戦略相らが聞いて、話がどんどん広まっていった。
森田:私は可能性はないと思っています。実際問題、せっかく議員バッジをつけた自民党議員が衆院解散に同意する訳がありません。ただ野党が国会で抵抗するならいつでもやるぞとけん制し、抑え込む効果をあげました。民主党には「これ以上議席を減らすのでは」という恐怖心が絶えずついて回っています。話が広まるだけで効果がある。
田崎:私も可能性はゼロに近いと思っています。昨年の衆院選は野党がバラバラだったから294議席も取れたという側面がある。今度やって同じように取れるとは限らない。それに公明党も6月の都議選、続く参院選でめいっぱいなのに、これでまた衆院選なんて言われたら猛反発しますよ。
森田:安倍首相の前で、野党は完全にかすんでいる。この通常国会で野党が何をしたか思い出せない。何か得点を挙げたでしょうか。
田崎:逆にミスを重ねていますね。衆院の小選挙区の定数を「0増5減」する新区割り法案でも、野党はまず賛成し、定数削減にシフトすべきだった。
森田:躍進するとみられていた日本維新の会が、共同代表である橋下徹大阪市長の「慰安婦発言」で女性の信頼を失い、完全に失速しました。短期間での回復はまず無理でしょう。これで参院選を半ば諦めていた民主党が、急に元気になりました。ただ民主党には野心的なリーダーがいない。もしいれば、このチャンスを逃すまいと必死に考えるはずです。わかっているのは輿石東参院議員会長ですが、「私は政権を失った責任者の一人だから」と言って、あまり前に出てきません。
田崎:橋下氏の焦りが生み出した発言ではないでしょうか。一般的に支持率が落ちると政治家は焦るんです。一連の発言の前に「維新は年内に消滅するかもしれない」と口にしています。実際、年明けから維新の政党支持率は落ち続けています。相手を論戦に引きずり込んでたたく、というのが橋下氏の一つのスタイルですが、テーマがまずかった。従軍慰安婦問題や米軍による風俗活用といった議題はプラスに働きませんでした。
森田:みんなの党の渡辺喜美代表がここぞとばかりに維新を批判し、距離をおきました。しかし昨日まで維新と共同歩調をとってきたんだから、みんなも影響がないわけではないですよ。
田崎:渡辺氏は「維新をたたけば自分のところに票が来る」と考えているようですが、これは全くの間違いです。維新の支持層はおそらく自民党内の右側の人たちだから、維新票は自民党に戻るんです。改選数が複数の選挙区で競合する民主党の議席確保につながり、維新の失敗は既成政党にプラスに働いています。
森田:投票率はどれぐらいいくと思いますか? 私は50%を切るとみています。対立の構図がないから争点がなく、選挙自体、盛り上がらない。期待感もない。
田崎:安倍首相の信任投票みたいな雰囲気になってきましたね。安倍さんは経済政策と政治の安定の二つを掲げて戦うでしょう。野党が「憲法改正の是非」なんて主張しても、「でも主要な争点はこっちでしょ」と誘導するはずです。投票率は50%を超えてほしい。
森田:自民党の獲得議席予測ですが、今の政治状況が続くという前提でいえば、選挙区で48、比例区で20の計68です。比例区でさらに議席を伸ばすかもしれない。28議席までは可能性としてあるでしょうね。いずれにせよ非改選の50と合わせ、自民党だけで単独過半数の122議席に届くかどうかの勝負になります。
田崎:59から67の間ではないでしょうか。詳しくみてみると、31の1人区で最低25は取ります。16の複数区ではそれぞれ最低1議席を確保。自民党、民主党が実施している内々の情勢調査では、東京の候補者が2人とも当選圏内に入っているので17に伸びる可能性がある。それで選挙区は計42となります。また比例区は18は堅いと読んでいますが、ある官邸筋は25取れると言っている。自民党を勝たせすぎてはいけないという心理が、いざ投票所へ行ったら働く可能性があるんですね。だから最高で20か21かな。いずれにせよ自公が今回計63議席以上を取り、非改選の59議席と合わせてねじれ国会が解消するのは確実です。
※週刊朝日 2013年6月7日号