まさにその通りだと思います。病床にあっての子規の精神力には目を見張るものがあり、感銘を受けます。『仰臥漫録』には毎日の3食の内容が記されていますが、これが実に粋なんですね。
まず刺し身が毎日のように登場します。かつおの刺し身が一番多く、まぐろ、めじ、かじきと続きます。そして冷ややっこ、鰻(うなぎ)のかば焼き、酢ガキ、はぜの佃煮(つくだに)、奈良漬けが彩りを添え、ライスカレー、親子丼、ぶどう酒1杯も出てきます。
腹部や背中から膿(うみ)を出し、時に痛みのために号泣していた人の食事とはとても思えません。寝たきりの病床にあっても、食を楽しむという、心の余裕に感服します。
ですから、自分自身の精神が弱っている時に、子規のことを思うと励まされるのです。
病状がややよかったころに大好物の柿を食べて詠んだ「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」はあまりに有名ですが、「柿くふも今年ばかりと思ひけり」という迫りくる死を淡々と迎えようとしている句もあります。「糸瓜(へちま)咲て痰(たん)のつまりし仏かな」という句は死の前日に詠んだというのですから、身につまされます。
皆さんもぜひ、自分にとっての「元気が出る言葉」を探してみてください。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2021年4月23日号