「ルールを覚えてから30年、棋士になってから20年間続けてきた将棋ですが、1年間、苦しみ抜いたうえでの結論ですから、自分のなかで未練はありません。いま、将来のことは何も分かりませんが、もし私にできることがあって、少しでも喜んでいただける人がいるのであれば、今後、何らかの形で将棋とかかわっていくことがあるのかもしれません」(橋本さん)
かつて、将棋界は「無頼派」と呼ばれる棋士たちの巣窟だった。
棋史に残る対局拒否騒動「陣屋事件」の主人公となった升田幸三元名人。天才棋士と呼ばれながら、舌禍・筆禍事件の常習者として知られ、51歳の若さで世を去った芹沢博文九段。作家・山口瞳をして「乱坊」と言わしめた米長邦雄永世棋聖(元将棋連盟会長)など、俗世間の物差しではとうてい測ることのできない男たちがひしめき合いながらも、異端児を内包する鷹揚な気風は、勝負の世界の怪しげな魅力とマッチし、ファンもそれを受け入れた。
だが、時代は確実に流れた。
いわば数少ない「無頼派」の生き残りとも呼ぶべき橋本さんの引退は、将棋界にとって幸か不幸か。その答えはもう、必要ないのかもしれない
(ライター・欠端大林)
※AERAオンライン限定記事
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