落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「入学式」。
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先日、長男(高1)の入学式があった。その日はスケジュールを空けて出席。入学式くらいは出ておかないと肩身が狭いし、第一、まくらやこのコラムのネタ探しにもなるので参加しない手はない。
式はコロナ対策で「保護者は1名のみ」。久しぶりに二人でおもてを歩く。私「雨だなぁ」長男「だねぇ」……終了。チーン。学校に着いてもないのに会話のネタ切れ。
学校に着くと「入学式」と書かれた看板の前に記念撮影の長蛇の列。「……撮る?」「べつにいいや」「だよな」。似た者親子で良かった。男子高。保護者はお母さんが多い。母と息子のペアは浮足立って見えるが、父と息子は間を持て余し気味に、さっさと受付へ。「保護者の方は教室でモニターでの参加となります」。密を避けるために親子別々とな。生徒は講堂へ。「しっかりな」「はいよ」と別れる。
教室へ案内され保護者がバラバラに座る。中高一貫校なので中学入試の付き添い、その入学式、中1の文化祭と過去3度この校舎に来たことがある。そうそう、入試の最中、保護者は学食で待たされたのだった。4時間あまり、コラムの原稿をガラホに向かって書いたっけ。3年以上前だ。あの日もたしか雨だったはず。
開会まで暫くあるので、ノートにネタになりそうなことを綴る。「会話がもたない」「写真要らない」「ただただ手持ち無沙汰」「雨」「眠い、ひたすらに」とメモした。
モニターに講堂の画像が映し出された。司会の先生が新入生に起立と礼の練習をさせている。そこから映さんでもよいのでは。「その調子でよろしく!」と先生。テレビの公開収録のADみたい。入学式が始まった。
特別変わったことのない入学式。ただ、式のあいだ新入生の様子を正面からなめるように撮影。保護者は生でそれを観る。入学式を正面から観ることは今までなかったな。我が子は映るだろうか? 目を凝らして観るが、学ラン、メガネ、同じような髪形でよく分からない。ん? ぽいのが居たが……自信が無い。真ん前に丸坊主の子。その子に気を取られているうちに一瞬でフレームアウト。んー。