新型コロナウイルス感染症を予防するワクチンの接種が世界中で着々と進む一方、治療薬の開発は遅れ、各国の研究者たちは苦闘している。期待された「アビガン」も、いまだに有効性が示されていない。新たな治療薬候補の出現が待たれる中、製薬大手がしのぎを削る開発の「最前線」を取材した。
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ワクチンに注目が集まるが、すでに一部のコロナ治療薬は日本でも承認されている。抗ウイルス剤のレムデシビルや、抗炎症剤のデキサメタゾンだ。ただし、これらはあくまで重症例が対象で、救命効果は見極めにくい。症状が軽いうちにコロナを封じ込める薬の開発が待たれる中、ゲームチェンジャーとして期待される新たな治療薬候補が出現した。手がけるのは米製薬大手のメルクだ。
メルクが米バイオベンチャーのリッジバックと共同開発を進めているのが、経口の抗ウイルス剤「モルヌピラビル」(開発番号MK‐4482)。メルクの日本法人MSDの白沢博満・上級副社長は4月20日、記者会見で「(モルヌピラビルの)5日間の投与で感染性のあるウイルスは100%消失した」と語った。
期待が膨らむ発言の根拠は、3月6日に発表した第2相臨床試験の中間解析の結果だ。外来で治療を受ける患者を対象に、モルヌピラビルまたはプラセボ(偽薬)を投与。鼻咽頭拭い液から採取したコロナウイルスの培養試験で、投与5日目にプラセボ群は25人中6人からコロナが検出されたが、モルヌピラビル群の47人からは誰も検出されなかったのだ。MSDの広報担当者がこう説明する。
「5月上旬までに、日本を含めた国際第3相試験を開始する予定です。最終データは9月か10月に得られる見込みです」
モルヌピラビルは軽・中等症の患者が対象。実用化に成功すれば、診断後、早期のうちに1日2回、5日間服用する治療になりそうだ。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師がこう解説する。
「モルヌピラビルの作用の仕方は、コロナウイルスが増殖する際、遺伝子を複製する元の部分に類似体を取り込ませます。これにより複製エラーが生じ、増殖が抑えられるのです。変異株の影響も受けないと考えられます」