世界的な科学誌である英ネイチャーの2月9日号に、マウスを使った動物実験で、モルヌピラビルを投与することで感染を抑えたという結果が掲載された。上医師が語る。
「動物実験のレベルでネイチャーが取り上げるのはまれなこと。有望な薬の情報は早い段階で載せておきたいという意図があったのでしょう。それだけ期待度が高い。日本での実用化も、感染の再拡大が心配される今年の冬に間に合わせるのではないかと見ています」
スイスの製薬大手ロシュも、やはり経口の新しい抗ウイルス剤の開発に取り組んでいる。米バイオベンチャーのアテアと組んで「AT‐527(開発番号)」の第2相臨床試験を実施中で、6月までに第3相試験に入る予定だ。ロシュ・グループの一員、中外製薬の担当者がこう説明する。
「AT‐527は、コロナウイルスが複製するときに必要なポリメラーゼという酵素の働きを阻害することで、ウイルスが増殖できないようにします。日本での開発計画は検討中です」(広報IR部)
軽症のうちにこうした飲み薬が処方されるようになれば、感染状況は一変するにちがいない。
点滴で投与する抗体医薬も注目だ。特に、ヒトモノクローナル抗体(人工抗体)は臨床試験中の昨秋、コロナに感染したトランプ大統領(当時)に使われ話題になった。
人工抗体は、コロナから回復した人間の免疫細胞から抗体をつくる遺伝子を抜き出すことで開発された。現在、米製薬大手のリジェネロン、イーライリリーなどの人工抗体が、米食品医薬品局(FDA)から緊急使用を許可されている。
リジェネロンは、人工抗体の「カシリビマブ」と「イムデビマブ」を組み合わせる“カクテル療法”を行っている。日本でも3月から第1相臨床試験が始まった。
■人工抗体投与で家庭内感染防ぐ
大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之医師が指摘する。
「家庭内で1人が感染した場合、残りの家族に感染が広がらないようにしなければなりません。ワクチンでは抗体ができるまで、2週間程度かかります。そうしたときに人工抗体を打てば、瞬時に抗体ができます。リジェネロン製は感染予防効果が最初の1週間で72%、それ以降では93%にも上った。つまり、家庭内感染を非常に有効に止めることができたのです」