自由民主党の国防部会と安全保障調査会は5月30日の合同会議で、政府が今年末に決める新「防衛計画の大綱」について、党の提言を決めた。北朝鮮の弾道ミサイルに対抗するため「策源地(敵基地)攻撃能力」保持の検討や、尖閣諸島を念頭に「自衛隊に海兵隊的機能を付与」などが含まれる。すでに安倍首相自身が国会で積極的な答弁をしているため、提言が「大綱」に反映される可能性は高いが、軍事的にはほぼ実行不可能な提案だ。
日本に対し、まさに核ミサイルが発射されようとしている場合、それを破壊することは自衛の範囲内ではあろう。だが攻撃しようにも相手の弾道ミサイルの詳しい位置が分からない。北朝鮮東岸の舞水端里(ムスダンリ)、西岸の東倉里(トンチャンリ)の固定発射台で何週間もかけて組み立てる巨大な「テポドン2」(全長30メートル、重量92トン)のイメージで論じる人もいるが、実戦用のミサイルは全く違う。新型の「ムスダン」(全長12メートル、重量19トン)は12輪の自走発射機に載せて、主に北部の山岳地帯のトンネルに隠され、出てきて約10分で発射可能とされる。
防衛省は米国がアフガニスタンなどで使っている無人偵察機「グローバルホーク」(約100億円)3機を導入したい考えだ。ジェットエンジン付きグライダーだから長時間上空から監視ができるが、他国上空の飛行は領空侵犯だし、飛行高度は約1万8千メートルだから対空ミサイルで撃墜される。1960年にソ連上空で対空ミサイルSA2に撃墜された米国の偵察機U2はその高度で飛んでいた。攻撃には、日本海上の潜水艦などから巡航ミサイル「トマホーク」発射が論じられるが、時速880キロだから、内陸の目標まで約20分、ムスダンが10分で発射されるなら間に合わない。
※AERA 2013年6月17日号