黒坂医師は、「網膜に光が届かないことによる影響も考えられる」と話す。本来は、網膜に光が届くことで脳の下垂体から分泌されるホルモンが調節され、体内時計が正常に働く。しかし、水晶体が濁り、網膜に十分な光が届かないとホルモンバランスがくずれ、体内時計が狂う可能性がある。

「体内時計の起点となる『スイッチ』は目にあるといえます。十分に光が入らないことで睡眠障害や生活リズムの乱れなどにつながり、それらが認知機能に影響を及ぼす可能性も考えられます」(黒坂医師)

 ただし、「認知機能の低下」と「認知症」はイコールではなく、認知症を発症した人が白内障の治療をして視力を回復しても、認知症が治癒することはない。現段階ではまだ、視力を回復することで認知症を予防できるかどうかまではわからないが、「見えないよりは見えたほうが、人の心身の健康やQOLにとって良いことは明らか」と大鹿医師は話す。

 加齢による白内障を予防することは難しいが、治療をすれば視力を回復することができる。見えにくさで不便を感じたら、早めに眼科を受診することをおすすめしたい。

(文・出村真理子)

週刊朝日2021年5月28日号より