だから、その時期、まる3カ月も、毎日のようにお会いしていたのに、記憶の中には完璧にかっこよくてミステリアスで隙がなく、優しい笑顔をたたえた田村さんのお姿しか存在しないのである。
ドラマでご一緒させていただいた翌年、田村さん主演の舞台を劇場で拝見した。
確か、新橋演舞場だったと思う「新・恋山彦」という時代劇だった。
もうこれが衝撃の体験だった。
舞台上の田村さんの立ち振る舞い、台詞回しから溢れ出る色気に華。
役の感情のひだが手に取るように伝わって来る。
一挙手一投足に釘付けになって、終演後は、これまで感じたことのない感動に、何だか分からないけれど涙がとめどなく流れてしばらく立てなかった。
そんな経験は後にも先にもない。
そんな田村さんに対して、浮世に存在する人という感覚が薄くて、だから、訃報を目にしても、どうしても現実味が少ないのかもしれない。
私にとってはもともと雲の上にいらっしゃるような方だったから。
ご自身の引き際についても美学を持っていらっしゃったと思う。
人間なのだから、病との戦いに苦しんだり、きっといろいろあったはずだ。
人間なのだから。
もしかしたら本当に極々一部の近しい人にだけ見せるお姿もあったはずだ。
だけどそんな想像すら近寄らせないほどに、私が出会ったあの頃のイメージのまま、カッコよく美しく優しくユーモアがあってストイックで完璧な田村さんの思い出だけを残して、田村さんは旅立たれた。
美学を貫いて、役を全うし、「じゃ、またね」と、少し照れたような笑顔を浮かべて背中を丸め、ポケットに手を突っ込んで歩き去る、そんな田村さんのお姿が浮かぶ。
一度でも共演させていただけたこと、本当に光栄でした。
ご冥福をお祈りいたします。
■水野美紀(みずのみき)
俳優。ドラマ・映画・舞台で活躍中。<出演情報>読売テレビ・日本テレビ系ドラマ「カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~」が4月1日スタート。レギュラー番組は、フジテレビ系バラエティ「突然ですが占ってもいいですか?」毎週水曜22:00~、読売テレビ「水野美紀の映画生活(シネマライフ)」毎週金曜22:54~<関西ローカル> http://www.ytv.co.jp/cinemalife/
【書籍『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』好評発売中】