当事者が気軽に立ち寄れる店もある。2010年オープンの「Neccoカフェ」(東京都新宿区西早稲田)は、店内で発達障害などに関する千冊以上の本が読めるほか、夜や週末にはさまざまな当事者会やイベントの場になる。代表の金子磨矢子さん(67)は、子育て中にADHDと診断され、「片付けられない理由が分かり安心した」が、カフェには、悩みの尽きない人たちが訪れる。
3月下旬、就職で上京してきた男性は「発達障害のことを職場にふせているけど、心配です」と相談してきた。金子さんは、同じ職種の当事者会を紹介し「大丈夫だよ」と背中を押した。近ごろは、特定の業界・分野で働く人たちが悩みを相談し合う当事者会も出てきているという。
■環境を整える必要性
一方、職場における課題は残る。リクルートワークス研究所は19年、「職場における発達障害グレーゾーン研究会報告書」を公表した。研究会をつくった理由を、同研究所の大久保幸夫アドバイザーはこう語る。
「産業構造の変化などで、より高度な対人スキルを求められている職場では、当事者の苦悩はもちろんマネジャーの疲弊も目立っており、企業組織の課題として共有する必要がありました」
報告書は「10人に1人がグレーゾーンという指摘もある」とした上で、発達障害の「職務特性」を挙げる。例えばASD傾向は「規則性や集中力を要するもの、膨大なデータの取り扱い」について、ADHD傾向は「発想力や、単独で動き回る力」について能力を発揮しやすく、こうした人たちを雇用対象から外せば「企業経営に必要な人材が確保できない」としている。大久保さんは断言する。
「当事者の努力だけでなく、職場側も本人の能力を生かせる環境を整えないと、企業の生産性は上がりません」
これからの組織づくりは、各自の得手不得手を補い合う「人の組み合わせ」がカギであり、実現に二つの条件があるという。
まずは本人が得意・不得意を自己理解できていること。もう一つが、自分の特性や弱点を周囲に言いやすい職場であることだ。これは「心理的安全性」とも呼ばれ、15年に米グーグル社が「効果的なチーム」に最も重要な要素だと発表した。
「心理的安全性の確保を必要とするのは、発達障害に限らずLGBTなどの人たちも含まれます。ダイバーシティーやインクルージョンを本来の意味で進めるためにも、日本の企業は、こうした組織づくりにしっかり取り組むべき時期に来ています」(大久保さん)
(ライター・豊浦美紀)
※AERA 2021年5月24日号