呼び出されればすぐ現場へ駆けつけた長年の習慣から、今も毎朝、化粧をする。年を重ねるにつれ、顔に刻まれた皺は確実に増えている。こればかりは仕方ない。化粧をしないと、「こんなしわくちゃばあさん、やだな」と自分でも思う。
でも「化粧するとごまかせるのよね」。ファンデーションやマニキュアを塗り、赤い紅をひく。そして<まだいける>と思い込む。
3年前、60年近く連れ添った夫を見送り、今は一人暮らし。同じく「おひとりさま」で夫婦問題研究家の岡野あつこさんとネット配信番組で共演し、本も一緒に出した。今の仕事はラジオ1本。キャリアをスタートさせたのもラジオ局からで、原点に戻った気がしている。
コロナ禍で自粛生活が長くなり、空を見上げ、星をながめることが増えた。何十年も生きてきて、星や月や太陽に興味を持ったことなんて、それまで一度もなかった。
年を重ねるとは、坂道を転げ落ちるようなものかと思っていたら、そうでもなかった。むしろ、ますます元気になっているようにさえ感じる。
人生って、おもしろい。
「年を重ねるごとに人生わかっちゃった、みたいな生き方じゃないの。わかんないこといっぱいあるから元気なのよ」
長野冬季五輪の公式ポスターや数々の人気CMを手がけたアートディレクターの浅葉克己さん(81)は、「ピンポン」をもじった「東京KINGKONG(キングコング)」という卓球クラブを作り、100人ほどのメンバーを束ねる。
海外に出るときは常にラケット持参で、現地で卓球仲間を探す。スポンサーを相手に「卓球接待」をするなど、仕事でもピンポンが欠かせない。
「引退ってなんだろう。引退なんていう言葉、知らないですね」
健康でいられる秘訣も、もちろん卓球だ。頭上高く球を掲げてサーブを繰り出せるよう、オフィスの床を工事でわざわざ30センチほど低くし、卓球台を置いた時期もあったほど。ほとばしる卓球愛。その魅力は「何歳からでも、いつからでも簡単に始められること」と力を込める。運動量は意外に多く、足腰の踏ん張りをきかせるから、「知らぬ間に筋肉がついて転びにくくなった」という。
ラケットを振っていて仕事のアイデアが浮かぶこともある。卓球があるから健康でいられ、健康でいられるから仕事ができる。目下の張り合いは「新しい戦型を作ること」だ。(本誌・大崎百紀)
※週刊朝日 2021年5月28日号より抜粋